第13話 13


 チャイムが鳴る、休み時間になる。俺は教室から廊下へ。

「竜ちゃん、どっか行くの?」

 出ようとした俺の背中に悠の声が。

「ああ、ちょっとトイレ」

 そう、今からトイレに行く。そこで幽霊に話しかける。俺以外には誰にも見えないアイツと教室の中はもとより人目につく場所で話すわけにはいかない。ならば、一人になれる場所を考え、真っ先に浮かんだのがトイレの個室。そこならば誰かに見られる心配はないし、声が漏れ出てもスマホをいじっていると思われるはず。

「そっかー」

 残念そうな悠の声。

「なんか用か?」

 お前も俺に何か用事でもあるのか?

「うん、お菓子もらったから竜ちゃんにお裾分けしようかなって」

「悪いな、ちょっと急ぐから」

「それじゃさ、取っておくから次の休み時間に取りに来てね。絶対だよ」

「ああ、分かった。それより取っておくと言いながら食うなよ」

「あたし、そんなに食べないもん」

 大きな頬をいつも以上に膨らませて悠が怒る、というか怒ったフリをする。

「分かった、分かった。それじゃあな」

「絶対に来てよねー」

 悠の声を背中で聞きながら俺は廊下へと出た。

 

 よしよし、ちゃんと着いて来ているな。

 休み時間に突入するとともに、いつものごとく消えてしまうかもと考えていたけど見えている。俺の後方を飛ぶようにしながら着いて来ている。

 目論見が上手くいき一人ほくそ笑む。

 さあ、後はトイレの個室に入ってアイツに話しかければいいだけ。

 そのはずなのにアイツの姿が見えない。

 トイレに入る前まではちゃんと着いて来たはずなのに。

 何でだ?

 教室以外の場所では活動できないのか? それはないはずだ。寸前まではたしかにいたはず。それに教室の外、校舎の外でも飛び回っていたし。

 トイレのから外へ、廊下へと舞い戻る。

 いた。トイレの入り口付近で漂っている。

 よし、今度こそちゃんと着いて来いよ。もう一度、中に。

 来ない、個室の中は俺一人。

 どうして着いて来ないんだ。トイレには結界でもあるのか? それとも不浄の地だから幽霊は立ち入り禁止なのか? そんな話聞いたことないぞ。

 沸々と怒りがわいてくる。

 せっかく俺が話しかけてやろうとしたのに。厚意を無駄にしやがって。

 怒りに震えているうちにチャイムが鳴った。


 教室に戻っても怒りは治まらなかった。それどころか勢いを増した。

 というのも、アイツは俺の気なんかまるで知らないといった感じで嬉しそうに、楽しそうに俺の周りを飛び回っていやがる。

 人の厚意を無にしやがったのに、なんでそんなに楽しそうなんだ。

 よし、こうなったら絶対にアイツと話してやる。

 心の中で一人固く、そして強く決意する。

 トイレが駄目ならば別の場所だ。人の少ない場所はどこかないか。

 前の時間同様に、授業のことなどそっちのけで考えてしまった。 


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