第12話 12
ずっと見ていれば俺が気付いていることがアイツに伝わるのだろうか?
しかし、授業中ずっと黒板と教師にではなく、あらぬ方向に絶えず視線を送っていたのでは周囲におかしな人間という誤解を与えてしまう。
ならば、どうすればいいのか?
声に出して伝えてみるか。
「見えている」と。
いや、待てよ。俺の声はアイツに伝わるのだろうか? そもそも幽霊とコミュニケーションが取れるのだろうか?
思い起こしてみれば、アイツは教室で俺の周りで浮遊したり、偶に悪戯するだけ。夢の中では話しかけてきたのに、現実では一言も喋っていない。
もしかしたら声を発していたのかもしれない。けど、その声は俺には聞こえていないという可能性も。
いや、聞こえているはずだ。というか普通の人の声もアイツには聞こえるはず。何時だったかは正確に記憶していないけど、古参教師のつまらないダジャレで教室中が水を打ったようにシーンとしていたのに、女幽霊だけは腹を抱えて笑い転げて、というか宙を浮遊していたよな。
ということは、俺の声も聞こえるはずだ。
ならば、呼びかけてみるか。
横に移動してきた瞬間を見計らい、いざ声を出そうとした。
が、実際に出さなかった。発声しようと思い立った途端新たな疑念が頭の中に。
どの程度の音量で話せばいいのか?
対人ならば音量の調整は容易だ。しかし相手は幽霊、未知の相手。
人と話すように声を出せば聞こえるのだろうか。ああ、それだと駄目だ。授業中に突然変なことを言い出せば周囲が驚いてしまう。
ならば、独り言のように小声でブツブツと呟けば。うーん、これも変な人間になってしまうのでは。後で悠に心配されてしまう可能性も大だ。
授業そっちのけで考える。
それならば文字で伝えるのはどうだろう。ノートを取るフリをしながらメッセージを書く。これならば周囲におかしな誤解を絶対に与えないはず。
そうだ、そうしよう。
早速実行する。ノートの端にメッセージを書き記す。『見えているから、休み時間に俺に着いて来い』と。
果たして気が付くだろうかという俺の懸念はすぐに解消された。俺の前へと漂ってきたアイツはノートへと視線を落としている。
心なしか、少しだけ表情が明るくなった、元気になったような気が。あっ、でも幽霊に元気という表現はおかしいか。
よし、これであとは休み時間になるのを待つだけ。ああでも、コイツは授業中以外には消えていたよな。着いて来ない可能性もあるぞ。
まあ、その時は別の手段を考えよう。
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