第11話 11


 おかしなことでも常時続いていると案外慣れるものだ。

 あれからずっとアイツは教室で俺の周りをウロチョロと漂い続けた、授業の妨害をしていた。

 が、視界の入るように動き回っているだけ。時折、俺の体を手や足、または顔が通り抜けていくが気にはならなくなっていた。

 行動がワンパターンなんだよ。

 そんなんじゃ、こっちはもう驚かないんだよ。

 それでも俺の絶対に気付かせようと机の上に立ち眼前に仁王立ちするけどそんなに気にならない。邪魔なのは事実だけど、完全に視界を塞がれて授業妨害を受けているわけじゃない。コイツの体は半透明、目を凝らして黒板を凝視すれば板書が見える。それに見辛かったとしてもノートを借りれば済むだけの話。

 時折パターン破りの行動をするけど、まあ対処できる。さすがに屋上? からのダイブには思わず肝を冷やしたけど、窓から外を見ていたら急に人が落ちいくのだ、驚かないほうがおかしい、それでも冷静に鑑みればコイツは幽霊なんだから屋上から飛び降りても問題ないはずと思考し、なんとか取り乱すこともなかった。

 教室だけじゃなく、毎夜の如く夢の中でも登場するけど、そっちももう気にならないし、相変わらず懇願するように俺へと迫ってくるけど、無視をする。

 おかげで寝坊しなくなった。遅刻の心配もなくなった。

 もはや日常の光景だ。

 俺の周りを漂うセーラー服姿の少女の幽霊。ほんの偶にだが、邪な目で見てしまうことも。

 常の俺の周囲にいるのだ、スカートの中が見えないかなと実に思春期男子としては普通の思考に至ることもあるが、残念ながらアニメのように鉄壁に防御されている。ならば悠とは異なる余計な脂肪が一切ついていなさそうな白いお腹をチラリと見せてくれてもよさそうなものなのに、こっちも中に着ているシャツで完璧に防御されている。

 幽霊なんだから暑さ寒さは関係ないだろ。少しくらいはサービスしろよ、理不尽な目に遇っているんだから少しくらい役得があってもいいじゃないか。

 こんなことを考えていると大抵休み時間に悠から、「竜ちゃん、エッチなこと考えていたでしょ」と指摘される。なんで分かるんだ、お前は。そういえば、この手の感は昔から鋭かったよな。ならば俺よりも悠のほうが見えるのは適任のはずなのに。

 相手を間違えたな。俺を選んだのがお前の敗因だ。

 

 俺の勝ちだと思った途端、コイツのことを憐憫に、哀れに思えてきた。

 見ないようにしてきたとはいえ、四六時中とは言わないまでも大半の時間は俺の視界に入ってくる。気が付かなくてもいいことに気付いてしまう。

 最初の頃はニコニコと笑みを浮かべていたのが、表情が暗くなったような気が。

 漂っている姿も力なく項垂れているように映る。

 出現した頃とは大違いだ。

 見えなくなる時間も多くなっていくし。

 そういえば、コイツは俺に気付いてほしくて行動しているはずなのに全然話しかけたりはしないよな。夢の世界で話しかけてくるのに、教室では皆無だ。

 現実世界では話せないのか。それとも別の理由があるのか。

 ずっと気にしないようにしてきたはずなのに、気になってくる。

 一度気になってしまうと、つい仏心が出てしまった。

 そんなものは出てこなくてもいいのに。

  

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