第10話 10
消えたと思っていたのに、見えなくなったと喜んでいたのに、煩わしさから解放されたと安堵したのに、二時限目開始とともにアイツは戻って来やがった。
例のごとく、俺の周囲を浮遊している。
極力見ないように鋭意努力するが、どうしても視界に入ってくる。
見えないようには無理だとしても、見ないようにする方法はないものだろうか。
もはや真面目に授業を受けることを放棄して、思考を傾ける。
そうだ、こうすればいいんだ。
机の上に開けもせずに置いたままの教科書を両手で持つ、目の前に持ってくる。俺の両目と教科書の間は約三十センチ。これなら大丈夫だろう。いや、用心してもっと間隔を狭める。後、十センチほど手前に寄せる。
俺の目に映るのは教科書の文字だけ。
これで俺の周りを漂っていても視界には入らない。
平穏とは到底言えないが、それでもはるかにマシな状態になった。悠に余計な心配をかけなくても済むし。
甘かった。
アイツはこの世ならざるモノだった。
教科書の文字しか映っていなかったはずの俺の目にアイツの顔が飛び込んできた。
物体を、つまり教科書をすり抜けて。
慌てて教科書を閉じる。……意味のない行為だったけど。大きな音が教室に響いただけ。依然俺の前にはアイツの顔が。
「どうした、大島。寝てたのか?」
生物教師の声が飛んでくる。
助かった。驚きで危うく声が出そうになったけど、今ので引っ込んでくれた。
でも、おかげでクラスの笑いものになってしまう。
そして、クラスの連中に交じってアイツもニヤニヤとした悪戯っぽい表情を俺に向けている。
顔を、目を逸らす。
視界に映らくなっても、さっきの顔が脳裏にクッキリと刻み込まれていた。
クソっ。
絶対にお前のことに気付かないでやる。日本語としてはなんかおかしいけど、そう決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます