第7話 7


 空腹、飢餓状態から癒えたからなのか、はたまた別の理由があるのかさっぱりと分からないけど、あれから見えることはなかった。

 これでもう見ることはないんだ。そう思うと、少しだけ寂しさを覚えるような気が。

 いやそれは気のせいだ。見えになくなって清々している。

 これで日常が戻ってくる。

 と、思ったらまたまた、三日連続で夢を見てしまった。

 なんでまた見てしまうんだ。己に降りかかる理不尽さを嘆いてみたが、どうにもならない。

 夢の世界から脱出できない。

 夜の薄暗い教室。悲しいけど見慣れてしまった光景。次に青い月明りが窓から差し込んでくる。これも知っている。

 そしてセーラー服の少女の登場。

 ここからは昨日までとは違った。

 俺の存在に気が付いたのか、すーっと寄ってくる。

「また来てくれたんだね」

 嬉しそうな、可愛い声が。

「来たくて来たんじゃない。……それにこれは俺の夢だ」

 嬉しそうに話しかけてくれるところ申し訳ないが、文句の一つも出てしまう。

 が、向うは俺の文句に気を悪くした様子なんかおくびも見せずに嬉しそうに微笑んでいやがる。

 勝手に出てくるコイツのほうが絶対に悪いはずなのに、俺のほうが悪いような気分になってくる。

「でっ、気付けってどういう意味だ?」

 昨日の疑問を口にする。

「だから、あなたに気付いてほしいの」

「気付いているから、こうして話しているんだろ」

「そうじゃないの」

「だったら、どういう意味なんだ?」

 堂々巡りの不毛な会話がしばし続く。

「だから、私に気が付いて」

 もう何度目か分からない台詞。正直聞き飽きてしまった。

「何度も言っているだろが、気が付いたからこうして話しているんだと」

「そうじゃないの」

「何が、そうじゃないんだ」

 冷静にならないと進展しないのではと分かってはいるけど、つい熱くなってしまう。

 夢の世界が理不尽なことは百も承知しているはずなのに。

 落ち着け、俺。

「どうすればいいんだ?」

 大きく深呼吸をして気持ちを少しだけ落ち着かせ、ゆっくりと言う。

「学校で、教室で私に気付いてほしいの」

「ここは学校だろ」

 時間帯は夜とはいえ、生徒は誰もいないとはいえ、俺の夢とはいえ、学校の教室のはず。

「……ここじゃないの」

 しばしの沈黙の後で、悲しそうな消え入りそうな声。

「じゃあ、どこの学校だ?」

「お昼の学校」

 即答で返ってきた。俺の質問の意図はズレがあるけど。

 俺に昼間の教室の夢を見ろと言っているのか、それとも授業そっちのけで惰眠をむさぼり夢の世界に来いと言っているのか。

 考えてしまう。どっちだ、それとも別の答えがあるのか。

「お願い、気付いて」

「授業中に寝ていればいいのか?」

「そうじゃないの。私はいつも君の教室にいるから」

 正直意味が分からない。

 けど、これだけ懇願されているのを無下にするのも。

 それにこれは夢。ここで安請け合いをして承諾しても現実の世界では関係のないこと。

「分かった。教室でお前を見つければいいんだな」

「……うん、そう」

「分かった」

「絶対だからね」

「ああ」

「本当に、本当だからね。噓をついたら呪っちゃうから」

 最後の言葉はふざけて言ったのだろう。まあ、夢の世界の住人に呪われても問題ないけど。

「約束だからね」

 この言葉を聞いたと同時に、俺は夢から覚めた。

 時計を見る。まだ六時前。なんでこんな時間に起きてしまうんだ。

 まあ、起きたいと願ったのは他でもない俺自身だけど。それに遅刻ギリギリよしは遥かにマシか。今日はゆっくりと朝飯が食えるし。 


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