第5話 チョコより甘い話はない

「紫音、ちょっとおしゃれなお店って知らないか?」

「なんだよ。急に。」

「いやぁ、由紀ちゃんとデートの約束取り付けたんだ。でも、俺最近のおしゃれな店なんて知らないし。紫音なら知ってるかなぁ。って。」

岸くんが頭を搔きながら、紫音に相談している。顔が真っ赤だ。

どうやら、うれしくてうれしくて仕方ないみたいで、顔がにやけっぱなしだ。

「ちょ、きっさん。良かったじゃないですか!!ってか、顔真っ赤!!あはは。」

「ほんと、よかったねぇ。じゃぁ、俺のおすすめのおしゃれなお店、予約しといてやるよ。でも、いつもみたいにガツガツ食べちゃダメだよ。お上品に食べてよ。」

「いや、俺だって畏まったところで食事したことぐらいあるし。テーブルマナーぐらいきちんとできるって!」

「ほんとかなぁ。」

紫音も僕も岸くんを見ながらニヤニヤした。


それから数日後、

「そういえば、今日じゃない?岸くんのデートの日。」

「ん?あ、そうだね。今日だよ。岸くん大丈夫かな。」

今日は 3月14日ホワイトデーだ。

下の階のQueenではホワイトデーイベントをやっているらしく、とても賑やかだ。街も、バレンタインほどではないにしろ、華やいだ雰囲気を醸し出している。

「紫音の紹介の店ってフレンチのお店でしょ?ほんとに岸くん大丈夫かなぁ。」

「まぁ、由紀ちゃんも岸くんの性格をわかってるだろうし、食事作法で振られちゃうってことはないだろうけどね。」


そんなことを紫音と話していると、カランカランと入り口の鐘が鳴り、とても暗い顔の岸くんが入ってきた。

僕と紫音は岸くんの顔を見て驚いた。

由紀さんは岸くんへのプレゼントを用意していたわけで、きっと二人は両想いなんだと思って送り出していたはずなのに。


「きっさん。どうしたの?由紀さんとのデート…?もしかして、失敗した?」

僕は恐る恐る聞いてみた。

「うわぁ、迅、紫音、聞いてくれ。…俺、振られた。ってか告白する前に、振られちゃったよ。」

「え?どういう事?…だって、うまくいくと俺たち思ってたのに。なんで?何したの?」

めそめそと泣きべそをかいている岸君をなんとか宥めて事の次第を聞き出した。

「由紀ちゃん、この4月からアメリカに留学するんだって。4年はそっちで暮らすらしいんだ。どうやらインターポールの研修生として入庁することが決まったんだ。ゆくゆくは日本に戻ってくるらしいけど。任期中は戻らないって。

だから、堀田さんが一人になっちゃうから、お父さんの事をよろしくお願いします、って言われて。俺、好きだって言えなかった。うわあぁ。」

そうだったのか。岸くん。

「そっか、それはつらかったね。今日は俺がおごるから、飲んで忘れよう。」

紫音が岸くんの前に置いたビールを岸くんが一気にあおって飲み干した。

「紫音、おかわり。」


その時、カランカラ~ン♪入り口が開き、見たことないお客が入ってきた。

「いらっしゃいませ。」

そのお客の顔を見た岸くんの顔色が変わった。

「北山さん!!何でここに?」

「岸くん。初めましてだね。堀田さんに教えてもらったんだ。ここに来れば君に会えるかなと思ってね。

あ、僕もビールをいただけますか?」

この人があの北山さんなんだ。確かにキレそうな感じの刑事だ。

「かなりアウェーな空気だけど。まぁこんな空気も悪くないね。」

「俺に何か用ですか?由紀ちゃんに振られた俺の事、笑いに来たんですか?それなら、俺もう帰りますし。」

岸くんは憤慨している様子で、カウンターから立ち上がった。

「まぁ、落ち着いて、岸くん。由紀ちゃんは君の想いを知っているよ。でも、想いを告げるのが遅かった。彼女はずっとアメリカに行くことを迷っていたんだよ。もし君がもう少し早く彼女に思いを伝えていたら、違っていたかもしれない。僕は、彼女からインターポールの件を相談されたんだ。僕も優秀な彼女の将来をサポートしたくてね。協力を惜しまなかった。堀田さんにはかなり恨み言を言われたけどね。彼女は日本の警察には必要な人材になると思ったからね。だから、君が告白できなくて僕はよかったと思っているけどね。」

「わかりました。お話がそれだけでしたら僕はこれで失礼します。」

そういって、岸くんは帰ってしまった。


「それ、飲んだら帰ってくださいね。お代はいいですから。」

紫音が無表情で北山さんに言った。

「どうやら、嫌われちゃったみたいだなぁ.ま、仕方ないか。

でもね、由紀ちゃんも本当は岸君の事好きなんだよ。あ、岸君には内緒ね。由紀ちゃん,ずっと迷ってたんだ。アメリカ行きかそのまま日本の警察に入るか。でも、どうしてもアメリカで自分の力を試したかった。だから、アメリカ行きを選んだんだ。それで、4年も待たせてしまうと申し訳ないって、岸君に想いを伝えずに旅立つ事にしたらしい。」

「なんで、岸君にそれを言わないんですか?」

「由紀ちゃんの想いを踏み躙りたくないからね。それだけ覚悟をきめてアメリカに行くんだから。」


僕はすこしこの北山って人がいい人なのかもって思った。


「じゃ、帰るよ。お代はここに置いておくよ.警察官が無銭飲食はまずいからね。

あ、あとこれから色々君たちと関わる事になると思うから、よろしくね。あ、くれぐれも岸君にはさっきの話は内緒で。じゃ、また。」


そう言うと北山さんは颯爽と帰って行った。


「あの人最後にどえらいことぶっこんでいったな。色々関わるってどういうことだ?俺、関わりたくないな、あのタイプ。エリート面してなんか鼻につく。」

紫音はかなり警戒しているようだな。確かに、信用できるかわからないけど。

「でも、由紀さんも信用しているようだし、悪い人ではないようだけどね。でも、関わるってどういう事だろう」


僕たちがその言葉の意味を知るのは、もう少し後のことになった。



                  To be continued....



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