050:災厄をもたらす箱

 えー、皆さん。落ち着いて聞いてください。

 私は今……同族のミミックに犯されそうになってます。

 いいですか?

 もう一度言います。

 私は今、ミミックに犯されそうになってます!!!

 ぎやぁあああああああー!!!

 助けてー!!!!

 嫌だ嫌だ嫌だー!!!

 こんな状況落ち着いていられるかー!!!

 どんだけ絞め付ける力強いのよ!

 全然逃げれないじゃない!


『当然だ。汝を逃してしまったら子孫を残す機会を逃すのも同然だからな』


 私の考えてること全部わかっちゃうそれも盗聴と一緒だからね!

 むしろ盗聴よりもタチが悪いわよ!


『何を言ってるかさっぱりだ。汝は大人しく我に身を捧げればいい』


 嫌だから抵抗してるんじゃない!!

 くっそ。最悪だ。

 本当に最悪。


 でもこうなってしまったら仕方ない。

 絶対に私の初めてを死守するしかない。


『抵抗するのなら無理矢理まぐわうまでよ』


 パイセンも本気だ。本気で子孫を残そうとしている。

 でも敵意や悪意なんてものは一切感じられない。

 あるのだったら、私を絞め潰して無理矢理でも服従させるはず。

 そうしないのは私に対して敵意や悪意がない証拠。

 それに争うとかの意味で同族を襲わないって本人も言ってた。

 思念伝達の繋がりからも、そういった類の敵意などは感じない。

 なら今が逃げる絶好のチャンスなんじゃない!?

 本気で私をどうこうしようとしていない今が絶好のチャンスよ。

 私が本気で抗えば、この舌からの脱出なんてちょちょいのちょいだわ!

 触手プレイはクラーケンで懲り懲りなのよ!!


 私は体の回転でパイセンの舌からの脱出を試みる。


 必殺――回転攻撃スピンアタックッ!!!


 身動きが取れずにいた私だったが、この技によって軽々と脱出に成功した。

 これもパイセンが本気で私を絞め付けていなかった証拠。

 善意のみで私と交尾をしようとしている証拠だ。


『甘い』


 ――ぬあ!!!

 せっかく脱出できたのに、すぐに捕まっちまったよー!

 パイセンに敵意がないのと同じで、私も本気で攻撃してやろうって気持ちがなかった。

 その結果がこれだ。くっそ。

 逃げる絶好のチャンスだったのに。

 また捕まっちゃうなんて、私ってなんてドジっ子なの? (てへっ)

 って、言ってる場合じゃなーい!!

 躊躇ためらうな、私。

 食べ物を分け与えてくれた恩人でも、今は私を犯そうとしてる犯罪者だ。

 本気で逃げなきゃダメだ。

 たとえパイセンを傷付けるような結果になったとしてもだ。

 どうせ魔物ならレベルが上がれば怪我は治るんだし、ちょっとくらい本気を出しても大丈夫だろう。

 むしろ全力を出すくらいじゃなきゃダメだろ。

 相手は私よりも強いミミックだ。ゴールドボックスよりもさらに進化しているブラックボックスだ。

 全力も全力。一切手を抜くことなくやってやるよ。

 嫌がる女の子を無理矢理襲うのは、ダメなんだって事を私が教えてあげなきゃだ!


「キィイイイイ (覚悟しやがれ)」


 私は闇属性魔法を念じた。

 すると全身が黒色の光に包まれる。

 それと同時に全身に力が漲る。

 闇属性魔法を纏った状態だ。

 これで身体能力と攻撃力と防御力がバク上がり!

 もう躊躇わないって決めたんだ。

 思いっきりやるぞ。


『なんだ? その力は!?』


 何を驚いてるんだパイセン。

 これは闇属性魔法よ!

 私よりも強いパイセンなら、このくらいの魔法余裕で使っちゃうだろうに!

 ではもっと驚いてもらおうかしら!

 いきますよー!!


 必殺――ダークネス回転攻撃スピンアタックッ!!!


 どうだ!?

 闇属性魔法を纏った私の回転攻撃スピンアタックは!!


 先ほど以上の回転。そして威力。

 パイセンの舌の巻き付きから楽々と脱出できた。

 さらに洞穴からも脱出に成功!

 あとはこのまま逃げるだけだっ!!!


『汝と子孫を残すことは諦めよう』


 げぇ。結構離れてるのにまだ声が届く。

 それに謝ってももう遅いッスよー!

 私はこのままここを立ち去りまーす!

 お疲れ様でしたー!


 私は荒々しい洞窟の地面をアイススケートのように綺麗に滑りながら、洞穴から――パイセンから全力疾走で離れた。


『待て。逃すわけにはいかない』


 まだ言ってるよ。

 しつこい男は嫌われるッスよー!

 私を襲おうとした時点で私はもう無理ッスけどね。


『生きてここから逃すわけにはいかない』


 ひぃいいいい。

 今度は脅迫ッスか?

 それって付き合う前は優しくて付き合った後に豹変するタイプのあれじゃんか!!

 私のめちゃくちゃ嫌いなタイプだし、一番女子が嫌うタイプよ!

 DV男! サイテー!!

 って、パイセン追っかけて来てんじゃん!!

 怖ぇええええええー!!

 ささっと巻かなきゃ!


『なるほど。理解した。だから我でも理解できない奇奇怪怪な言葉を連発していたのか』


 何を理解したってのよー!!!

 私の気持ちを理解したってんならもう追いかけてこないでよー!!


『違う。我が理解したのは、汝はこの世界に災厄をもたらすだということだ』


 パ、パンドラの箱?

 確かギリシャ神話とかのあれ?


『汝は存在してはならぬ擬態者ミミック――パンドラの箱だ。我が汝をこの世界から抹消する』


 ひぃいいい。死刑宣告ぅううー!!

 最悪だー、最悪だー。

 なんで、なんでこうなったのよー!!


『汝がパンドラの箱だからだ』


 なんで私がパンドラの箱なのよ!!

 交尾できなかったからって、当て付けで言ってるんじゃないの?

 私を殺す理由が欲しいだけなんじゃないの?

 言いがかりにもほどがあるわ!

 自分のポリシーを、同族を倒さないってポリシーを守るためにさー!


『汝がパンドラの箱である理由は一つ。この一つの理由が汝をパンドラの箱だと確定させたのだ』


 だからなんなのよ。

 まさか、交尾を断ったから、とかって言わないでしょうね?


『汝が闇属性魔法を使ったからだ』


 は?

 たったそれだけ?


擬態者ミミックは魔法を使わない。否、使うことができない。使えるのはこの世界に災厄をもたらすパンドラの箱へと進化する個体のみ。そしてパンドラの箱が扱う魔法は闇属性魔法であるのだ。だから汝を抹消する。この世界に降りかかる災いを未然に防ぐため、この世界を守るため、禁忌の洞窟を守る擬態者ミミックの1体として、汝を世界から抹消する』


 パイセンが強く言い切った。

 それと同時に強く踏み込んできたのがわかった。

 実際には逃げるので精一杯で、そのシーンは見ていないのだが、感じたんだ。

 思念伝達とやらで繋がっている影響だと思うけど、はっきりと感じた。

 そしてその感じた感覚が正しいものなのだと、目の前の光景が証明した。


『汝はこの世界に存在してはならぬ存在だ』


 パイセンが目の前に現れて私の逃げ道を塞いでいた。

 追いかけてきていることはわかってた。

 でも追いつくはずがないと思っていた。それだけの距離が離れていたから。

 なのに一瞬で。たった一度の踏み込みで、私を追い越し道を塞いだ。

 パイセンの強さはひしひしと伝わっていた。

 親切にしてくれていた時から。

 でも今ならもっと感じる。体が小刻みに震えてしまうほど感じる。

 全身から変な汗が大量に出てしまうほど、パイセンから重圧を――恐怖を感じる。


 あぁ、そうだった。

 パイセンはミミック。凶悪で凶暴で恐ろしいモンスターだ。


『汝をこの世界から抹消する』


 戦うしかないみたいだ。

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ミミックちゃんの性獣譚 〜欲求不満の〝パンドラの箱〟が異世界を救う〜 アイリスラーメン @irisramen

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