第8話 友人と
……ハァ。
さっきから、自分の娘を玉の輿に、と必死な奴らに囲まれてばかりだ。
正直言って、うざい。
会食が始まってから、心の中でため息ばかり吐いている。
だが、いくら相手の爵位が低かろうと、無下に扱えば、足元をすくわれる。
ここは、丁重に扱わないと……。
……いや、違う。
ここで弱腰になるのは、エリヌス様じゃない!!
「……ゴホン。申し訳ないが、貴殿ら以外にも、久しく会っていない友人がいますので。少しばかりよろしいですか?」
「おお、そうですか。こちらこそ、お気遣いできず、申し訳ない」
「いえ。では、また後ほど」
……セーフ!!
貴族たちをいたずらに刺激せず、この場を切り抜けることができた。
流石、私──じゃなくて、エリヌス様!!
さっきの言い回しは、社交場にいる時のエリヌス様っぽかった!!
ダフネ様が勇者に任命された時のパーティーでも、少しだけエリヌス様が出ていたのだが、その時にもクレバーに立ち回り、金魚の糞のようについてくる他の貴族たちをあしらっていたのだ。
ちなみにだが、この時のエリヌス様はまだ敵役ではなかった。
『狂犬伯爵』という異名からダフネ様には警戒されていたが、まだ明確に敵意を示してはいなかった。
さらに言うと、この時がエリヌス様の初登場だ。
この時のカッコイイ台詞回しと、美しい挿絵にめちゃくちゃ惹かれたのを、今でも思い出す。
「……さて、と」
友人と会うと言った以上、誰かを探さないと。
……オリーブを探すか。
あいつも、この場に来ている事だろう。
それに、オリーブは会食慣れしていない、ただの一般人だ。
雰囲気に押されている可能性が高いし、早く見つけてやらないと……!!
そう考えた私は、少しだけ歩調を速めて会場内を回り出した。
◆
……あ、今の名前、悪行のやりすぎでダフネ様に折檻される人じゃん。
あっちから聞こえてきたのは、エリヌス様を詮索しすぎて抹殺された人の名前。
こっちは……、ダフネ様の仲間に手を出して速攻でとっ捕まえられたけど、そのイメージのせいでちょいちょい二次創作で色々なキャラに手を出す役をさせられてる人だ。
こうしてみて回ると、面白いものだな。
まあ、前世の記憶ありきの話だが。
ちょい役の名前を覚えておくことが、こんな楽しみに繋がるとは。
実際に顔も拝んでやりたいところだが、そんな余裕はない。
今は、オリーブ探しを……。
「あ、いた」
「あ、エリヌス様!!」
オリーブは、部屋の隅に立っていた。
……しかも、涙目になりながら。
案の定というか、なんというか……。
「すまんな、会食までに探せなくて。用事があった」
「い、いえ、気になさらないでください。わたくしなんかよりも、エリヌス様の方が大事ですから」
「そう言うな。自分の下で働いてくれている者を大切に扱わないで、私は貴族などと名乗れない」
周囲にいた貴族の空気が凍った。
おっと、声を大きくしすぎたかな。
だが、
……それに、だ。
いくら長年一緒にいるオリーブが相手とは言え、いつ背後から刺されるか分かったものじゃない。
折れるフラグは、徹底的に折らねば。
「エリヌス様……!! 光栄です!!」
「私とお前の仲じゃないか。さ、こっちへ来い。折角のパーティー、楽しまないでどうする」
「そ、そうですね……!! 新聞でしか名前を聞かないような方々ばかりなので、緊張しますが……」
「案ずるな。私がいる」
そう言って私は、オリーブの手を引いた。
警戒はすれど、友人であることには変わりない。
友人とともにパーティーを楽しみたいというのは、当然の感情で……。
……って、あれ?
「……おい、オリーブ。そのー……、後ろにいる娘は誰だ?」
先程までオリーブの体が陰になって見えなかったが、オリーブの背後に華奢な女の子が立っていた。
……背丈から察するに、まだ子供なのだろう。
だが、身なりからして、ここにいる貴族の子とは思ない。
それに……。
……いや、まだ結論を出すのは早い。
早計にもほどがあるぞ、私よ。
エリヌス様であれば、もっと思慮深くあらせられるはずだ。
落ち着け、私。
「この子ですか? 王国騎士団へ向かう道中で拾いました」
野良犬か!!
「……拾った、という事は、お前がここに入れたのか?」
「あ、はい……。……あ!! も、申し訳ございません!! 勝手な真似をしてしまいました……」
「いや、よい。気にするな」
確かに、身勝手な行動ではあるが、オリーブなりに考えがあるのだろう。
こいつは優しいが、浅慮な男じゃない。
それに、人を見る目もある。
……というか、そんな行動よりも気になる点があるのだ。
「それよりも、オリーブ。この娘の名は?」
「えっと……。……あ。そう言えば、自己紹介がまだでした!!」
……前言撤回しようかな。
この男、案外考えが浅いのかもしれない。
「えっと、今更感あるけど、改めて。私はオリーブ。こちらのお方、エリヌス様の剣術指南役をしています」
「紹介に預かった、エリヌスだ。お嬢さんのお名前は?」
じっと警戒した様子の瞳をこちらから外さず、女の子は口を開いた。
「僕の名前は
……おっふ。
堂々と名乗りを上げた少女──ダフネに対し、私は色々な意味で言葉を失ってしまった。
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