第7話 大収穫の暇つぶし

 あの後、王宮内でバーベナと別れ、私はしばらくの間暇つぶしをしていた。

 国立図書館に行って、適当な本を読み漁ったり、貴族特権で禁書を読んだり。

 ……まあ、大した収穫はなかったが。


 収穫はなかったが、意味はあった。

 一つは、単に夜の食事会まで暇にならなかったこと。


 もう一つは、エリヌス様の黒魔術についての情報を得られなかったことだ。


 バーベナのあの言葉。


『今の魔法はなんだ!? 初めて見たぞ!?』


 あれが、どうにも引っかかってしょうがなかった。

 私の記憶が正しければ、黒魔術において、作中でバーベナの右に出る者はいなかった。

 実際、エリヌス様が放った魔法を難なくいなしている描写もあった。


 だというのに、あの驚きよう。


 あの驚き方は、尋常じゃなかった。

 つまり、今現在のこの世界において、私の使った魔法はこの世に存在していない。

 ……もしくは、人間世界・・・・には存在していない。

 魔王のいる場所、魔界には存在しているのかもしれないが、今の私には、それを確かめる術がない。


 とはいえ、この事を知れたのは大きい。

 もし本当に私の魔法が未知の魔法だとすれば、これを餌にバーベナを意のままにできる。

 誰も知らない黒魔術、いかにもあいつが惹かれそうな響きだ。

 ……まあ、もう私の師匠にしたわけだし、ある意味では意のままに操れているのだが。


「にしても、これだけ探しても何も見つからないのか……」


 山のように積み上げられた本を眺め、思わずそう呟いてしまう。

 これら全てに目を通したわけではないが、少なくとも、エリヌス様が唱えているような詠唱を見つけることはできなかった。

 エリヌス様の詠唱が書かれていれば、私のオタクセンサーが反応しているはずなのにだ。

 ……困った。


 エリヌス様の──私の魔法が未知のものだという仮説は立てられたが、それはそれで少し困る。

 誰も使ったことがないという事は、使用者を含めた誰もがこの魔法について知らないのだ。

 切り札としてはこの上ないが、その分、私自身が危険度や威力、使用する際のリスクを把握しきれない。

 本来は、魔法の開発者がそう言った内容を魔導書にまとめるのだが、生憎、私にそのような能力はない。

 魔導書を読むことはできても、書くセンスも研究する術もないのだ。

 魔導書というのは、一般人が読めないよう、暗号などで何重にもセキュリティがかかっている。

 私には、そんな事をしながら書くことなど、不可、能……。

 …………。


 ……いや、待てよ?


 アニメであれば頭上に電球が灯るような閃きが、脳みそを駆け巡る。

 そして、さっきまで読んでいた禁書の表紙・・にざっと目を通す。


「……やっぱりそうだ」


 何冊かの表紙に、私が思った通りの著者名が書いてあった。


 ──バーベナ・ヴァーベイン。


 あいつほど危険な男なら、禁書の一つや二つ書いていると思ったが、ビンゴだったようだ。


 バーベナにはすでに、私の魔法を教える約束をしている。

 つまり、あいつに魔法の研究をさせ、それを魔導書にまとめてもらい、それを私が読む。

 そうすれば、私は何もせずとも、自分の魔法について知れる!!


 我ながら、完璧な作戦だ。

 次会った時には、すぐにでも私の魔法を教えてやろう。

 私は自分の魔法について知れ、その上で他の魔法についても教えてもらえる。

 ……もしかしたら、師匠ガチャ大当たりだったのかもしれないな。





 優雅な音楽に、煌びやかな照明。

 壁にも天井にも施された、細部までこだわっている美しい装飾。

 ここは、王宮の大広間。

 この国で最も華やかな場所。

 そして──


「お久しぶりでございます、エリヌス坊ちゃま。わたしの事をお覚えで?」

「はい。三年前に開かれた、我が家でのパーティー以来ですね」

「おお!! そこまで記憶していただけるとは、驚きです。……ところでなのですが、エリヌス様。エリヌス様は、ご婚約の相手などは……」

「おや、男爵殿。何をなさっているのですか」

「おお、これは侯爵殿。いえ、なに、こちらの話で……」

「でしたら、私の方からも。エリヌス様。こんな薄汚い男爵の小娘よりも、私の娘と婚約など……」

「あ、あははははは……」


 ──そしてここは、王宮で最も煩悩が渦巻いている場所だ。


 美しい飾りと美味しい食べ物で包み隠された、政治の場所。

 それが、貴族の食事会だ。

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