第113話 クマ撃退スプレーの威力
「ジーナ、カルラ! 次にドラゴンが攻撃してきたら、なんとかしてその攻撃を防いでくれ。その隙にコレットちゃんが強力な攻撃を仕掛ける。それとこの霧状の攻撃はこっちにもダメージがあるから、目と鼻と口に入らないように注意して」
「了解です!」
「おう、任せておけ!」
クマ撃退スプレーを知らないカルラに詳しい説明をしている暇はない。クマ撃退スプレーは指向性を持つ霧状の状態で噴射するから、正面にいなければ大丈夫だと思うが、もしも目や鼻や口に入ったらこちらにもダメージがある。
「GRUUU」
ドラゴンはまだこちらを睨んでいる。大人しく引き返してくれてもいいんだぞ……いや、お願いだから引き返してください!
「GYAAAAA!」
そんな俺の願いも空しく、再びドラゴンが急降下してきた。
くそっ、大人しく逃げてくれればよかったものを!
キンッ、キンッ
「……くっ、さっきよりも力が強い!」
「野郎、俺の爪よりも硬えじゃねえか!」
先ほどよりも高い位置から助走をつけて飛んできたこともあって、より鋭い爪の攻撃が襲ってきた。
しかし、それでもジーナとカルラがドラゴンの爪をなんとか受けたことによって、ドラゴンの速度が大幅に落ちる。
「えいっ!」
そこへ安全ピンを外して待ち構えていたコレットちゃんの持つクマ撃退スプレーが発射される。
スプレー補充機能により、日々何回か練習していたコレットちゃんの噴射したクマ撃退スプレーがドラゴンの顔へと的中する。
「GUGYAAAAAA!!」
「おお、やるじゃねえか、コレット! ぐえ、なんだこの辛え匂いは!」
「カルラ、この痛みはしばらく取れないので、離れて吸い込まないように注意してください!」
コレットちゃんが噴出したクマ撃退スプレーを正面から浴びたドラゴンが首を振りながら急上昇する。コレットちゃんが見事にドラゴンの顔に命中させてくれた。
真っすぐに勢いよく噴射するクマ撃退スプレーだが、風向きなんかによってその余波は広がっていく。カルラもほんの少しだけその臭いを嗅いでしまい、すぐさまその場から距離を取る。
「シゲトお兄ちゃん、やったよ!」
「うん、さすがコレットちゃんだね!」
「ホー!」
あの恐ろしいドラゴンに怯えることなく、見事にクマ撃退スプレーをドラゴンに当てたコレットちゃんの頭を撫でてあげる。柔らかな黒い髪の毛とモフモフとした狼の耳の触り心地が俺の手に伝わってくる。
どうやらコレットちゃんは頭を撫でられるのが好きらしいので、何か良いことをしたら頭を撫でることにしている。コレットちゃんもとても嬉しそうにしているけれど、なんだか俺の方がご褒美になっている気もする。
しばらく撫でてあげたいところだけれど、今はそれどころではない。ドラゴンは宙に浮かび、首を振りながら顔にかかったクマ撃退スプレーを振り払おうとしている。
「やったのか?」
「いや、今の攻撃にはダメージはあるけれど、殺傷能力はないんだ」
クマ撃退スプレーはその名の通り、撃退を目的としたもので、その命を奪うような攻撃力はない。
くそっ、あのまま地面に落ちてくれればいいものの、空に飛ばれてしまうとこちらの攻撃手段はほとんどない。そしてクマ撃退スプレーを正面からまともに浴びたとはいえ、その時間は一瞬だった。
ダナマベアの時は数秒間まともに食らわせたから、尋常じゃないほどのたうち回っていた。クマ撃退スプレーは唐辛子の辛み成分であるカプサイシンが入っていて、それを吸い込んだり目に一度入れば、呼吸器官や目に強烈な刺激と痛みを与える。
それは我慢できるような痛みではなく、飛んでいることもできないと思っていたのだが、空を飛んでいる相手には一瞬だけしか当てることができなかった。……いや、むしろ一瞬でも当てることができたコレットちゃんを褒めるべきだ。俺だったらビビッて外してしまった可能性も高い。
「あのドラゴンに止めを刺したりできそう?」
「……いや、俺の爪じゃあの硬え鱗を貫くことはできねえ。首元か心臓に食らわせられりゃあいけるかもしれねえが、暴れているあいつに近付くのはちょっと厳しい」
「私の剣なら可能性はありますが、あれだけ高い場所に浮かんでいるドラゴンには届きません……」
空を飛べるカルラも斬れ味のいいロングソードを持つジーナも空高くでクマ撃退スプレーに苦しんで暴れているドラゴンに攻撃をするのは難しい。
……カルラにジーナの剣で攻撃してもらう、あるいはジーナを抱えて飛んでもらうか? いや、どちらにせよ空で暴れている大きなドラゴンを相手にするのは非常に危険だ。やはり身体の大きさも空を飛べるのも大きな武器である。
「よし、それならあのドラゴンが動けないうちに山を下って逃げよう。少なくとも障害物ある森へ逃げ込めば、あのドラゴンも木々が邪魔になって森の中へ降りてくるか諦めて帰るはずだ」
何の障害物もないこの場所に留まることが一番まずい。ドラゴンが撤退するのならそれでいいし、森の中まで追ってくるのならやりようはある。
「わかりました。さすがにあの魔物とここで正面から戦うのは得策ではありません」
「うん!」
「ホー!」
「わかったぜ!」
どうやら全員賛成のようだ。この山道をキャンピングカーで走るのは横転してしまう危険が高いし、走って降りるしかない。
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次の更新予定
2024年10月26日 18:02 4日ごと 18:02
【書籍1巻10/21発売】キャンピングカーで往く異世界徒然紀行 タジリユウ@カクヨムコン8・9特別賞 @iwasetaku0613
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