第112話 レッドドラゴン


「あ、あれは……」


「おいおい、マジかよ!?」


 突然の咆哮、それは空を飛ぶ1体の魔物によるものだった。


「なんですか、あの魔物は!」


「な、何あれ!?」


「ホー! ホホー!」


 ジーナ、コレットちゃん、フー太はあの魔物を知らないようだが、おそらく俺は初めて見るあの魔物を知っている。トカゲのような身体にカルラと同じ真っ赤な深紅の鱗がびっしりと生えそろい、真っ白な鋭い爪と牙、そして上下する翼。


「あいつはレッドドラゴンだ! なんでこんな場所にいやがる!?」


「やっぱりドラゴンか!」


 龍人族であるカルラはあの魔物の名を知っていた。俺が予想した通り、あの魔物はドラゴンだった。


「GYAAAAAAA!」


 そしてなぜかドラゴンは登山道を降りている俺たちを見ている気がする。俺たちの少し前にも観光客はいるが、そちらには目もくれずにその視線はこちらを向いているように見える。


 翼をゆっくりと上下させてその場で浮かんでいる。どう見てもあんな翼であれほどの大きさの生物が宙に浮けるわけはないのだが、ここは魔法のある世界だし、なんらかの魔法を使用しているのかもしれない。


「あいつはまだ子供みたいだが、ドラゴンはドラゴンだ。さっさと逃げた方がいいぜ!」


「逃げるったってどこへ……? というか、あの大きさで子供なのかよ!」


 ここはまだ森林限界の場所で、身を隠せそうな森はまだまだ山の下の方だ。大小さまざまな石や岩が広がっているだけで、身を隠せそうなものは何もない。


 そして目の前にいるドラゴンは4~5メートルくらいある巨大な魔物なのにあれで子供らしい。大人になったら一体どれほどの大きさになるのか想像もできないぞ!


「ちっ、もしかして狙いは俺か! シゲト、てめーらはさっさと山を降りろ!」


「カルラ!」


 止める間もなく、カルラは背中にある翼を大きく広げ、空へと舞った。


 そうか、カルラは龍人族。もしかするとドラゴンはカルラを狙って――


「……俺じゃねえのか?」


「GURUUU」


 しかし、ドラゴンと同じように空を舞ったカルラには目もくれず、地上にいる俺たちを見ている。


 なんだ、俺たちの中の誰かを狙っているのか? 異世界人の俺、森フクロウのフー太、エルフのジーナ、黒狼族のコレットちゃん。誰が狙われていても不思議じゃない。


 ……いや、もしかすると目的は戦闘じゃない可能性もある。


「はじめまして、シゲトと申します。もしも俺の言葉が分かるのなら――」


「GYAAAAAAA!」


「げっ!?」


「シゲト、危ない!」


「危ねえ!」


「ホー!」


 俺がドラゴンに会話を求めたところで、いきなり空を飛んでいたドラゴンが俺たちの方へ突っ込んできた。


 キンッ


「くっ、なんという力……」


「硬ってえ~俺の爪と同じくらい硬えじゃねえか!」


「GRUUU!」


 突如空から急襲してきたドラゴンはその鋭い爪で俺たちを狙ってきた。だが、それをロングソードを持ったジーナといつの間にか長く伸びた爪が両手にあるカルラが弾いてくれた。


 空から高速で急襲してきて重力も加わっているのか、とんでもない速度だった。もしもあれが俺に直撃したら、間違いなく俺の身体は簡単に引き裂かれていただろう。


「ジーナ、カルラ、ありがとう!」


「ここは護衛の私に任せてください! ですが敵もかなり強い魔物のようです!」


「俺も今日の朝飯分くらいは働かねえとな!」


 いや、どう考えても今の攻撃をジーナと一緒に防いでくれただけでも、食事三日分以上の働きはあったと思うぞ。ドラゴンの目的はカルラじゃないけれど、ありがたいことに俺たちへ協力してくれるようだ。


 ドラゴンは再び宙で止まり、反撃してきたジーナとカルラを交互に睨んでいる。


「駄目か……言葉は通じないようだ」


「ホー……」


 もしかしたら、フー太のように言葉を交わせる魔物かとも思ったのだが、俺の言葉は届いていない。これまで何種類かの魔物に俺の言葉が届くのか試していたけれど、フー太以外の魔物に俺の言葉は理解できていなかった。やはりフー太だけが特別な魔物らしい。


 それに今は誰が狙われていたとしても関係がない。なんとかしてあのドラゴンを撃退する方法を考えないと……


「シゲトお兄ちゃん、あのスプレーを使うよ!」


「分かった、コレットちゃん! まだ策はあるから絶対に無理はしないで!」


「うん!」


 やはりあのドラゴンを撃退する手段はクマ撃退スプレーしかない。ドラゴンも生物である以上、ダナマベアのように顔面にこいつを吹きかければ戦闘能力を失うはずだ!


 背負っていたリュックからクマ撃退スプレーを取り出してコレットちゃんへ渡す。こういった緊急事態の際にはクマ撃退スプレーをコレットちゃんが使うことは事前に決めている。


 こんな危険な役を幼いコレットちゃんに任せたくはないのだが、悔しいことに俺よりも反射神経や身体能力が高いコレットちゃんに任せた方が成功率は高いのが事実である。


 コレットちゃんには絶対に無理はしないよう何度も言い聞かせてきた。コレットちゃんの場合、自分の命と引き換えにとか思っていそうだからな。そんなことはまったく望んでいない。




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