第111話 下山道
「さて、それじゃあそろそろ火山を降りよう」
アステラル火山の火口をぐるっと一回りしてきた。この火山の火口はだいぶ大きいため、一周するだけで1時間も掛かった。
とはいえ、火口から見える景色は場所によってだいぶ異なるので、楽しみながら回ることができた。俺たちが見てきたマイセン湖なんかも高い場所から見ると、あれだけ広い湖だったんだなと再確認できる。
反対側には広大な森が広がっていたり、別の山々が連なっている景色も見えたし、やはりビルなどの高い建物なんかが見えない異世界の景色はとても素晴らしいものだった。
「下山道はこっちかな」
「ああ、ここを降りれば下にある村へ着くぜ」
下山道は4つほどあって、そのうちのふたつは俺たちが来た村へ戻る道で、残りはそれぞれ別の場所へ降りる登山道らしい。せっかくだから行きとは異なる道で降りることにした。
俺たちは次の目的地をまだ決めていないから、もう一度村に戻る予定だ。フェビリー村とは違ってそこまで宿代が高いわけではないから宿にも泊るつもりでいる。とはいえ、今日もたくさん歩いたから、また温泉に入って体を休めるとしよう。
カルラを先頭に登山道を降りていく。
「へえ~カルラはいろんな場所をひとりで旅してまわっているんだ?」
「おう、俺は物心ついた頃からずっとひとりだったからな。どうやら俺の種族は子供のころから力が強いこともあって、ある程度育ったら集落からほっぽり出されるみたいだ。そんでしばらくひとりで世界を回ったら勝手に戻って来いって言われたぜ」
「な、なるほど……」
何ともすごい種族だな。獅子は我が子を千尋の谷に落とすというが、この異世界の龍人という種族はそれよりも厳しいらしい。
まあ、確かに空を飛べるという時点でかなりのアドバンテージではあり、最悪の場合すぐに逃げることができるのかもしれない。
「この火山の上の方はちょうどいいくらいの暖かさで気に入ったから、もう一月くらいはここで暮らしているか。他のところはだいぶ寒いからな」
「私たちにとっては少し暑いと思えるのですが、カルラにはこれくらいがちょうどよいのですね」
「僕もここはすっごく暑いかも……」
どうやらこの暑さはカルラにとってちょうどよいらしい。俺もみんなと一緒で、袖をまくって半袖にしている今でも暑い。
「ホー?」
「この暑さもカルラにとってはちょうどいいんだってさ」
「ホー……」
カルラの言葉が分からないフー太にも説明をする。
どうやらフー太もここの気温は暑いらしく、げんなりとした様子だ。確かに俺やジーナよりもモフモフとしたフー太やコレットちゃんは暑く感じるみたいだな。
「そういやシゲトはそこのフクロウの言葉が分かるんだな?」
「ああ。フー太の言葉は分からないんだけれど、フー太は俺の言葉が分かるんだよ」
「へえ~そいつはおもしれえな! 昨日のキャンピングカーやらアイスクリームやら、シゲトみてえな人間に会ったのは初めてだぜ。シゲトはなんで旅をしているんだ?」
「……俺はこことは別の国から来たんだが、いろいろとあって故郷の場所が分からなくなったんだ。今は故郷を探しながら、のんびりとこの国を旅しているんだよ。ちなみに日本とか、東京とかいう場所を知っていないか?」
「にほん、とうきょうか……悪いが俺も聞いたことがねえな」
「そうか。まあ、今みたいにみんなと一緒に旅をしているのはとても楽しいから、おまけみたいなものだけれどな」
一応これまでも、街や村を訪れた際には元の世界の情報収集をしているが、何のヒントすらも得られなかった。まあ、これについては結構諦めてもいる。
それに最初は不安の方が勝っていたけれど、今ではフー太、ジーナ、コレットちゃんと旅ができて、毎日が新鮮で楽しいことばかりだから元の世界へ帰れなくてもいいと思っている自分がいる。
今更元の世界の会社に戻る気はとてもじゃないけれどないかもな……両親や友人にお別れの言葉くらいは伝えたかったところだけれど、それ以外は元の世界に未練はない気がする。
「私もシゲトとフー太様の護衛で同行しているのですが、毎日がとても楽しいですよ。それにシゲトが作ってくれる料理はどれもとてもおいしいですし、アイスクリームみたいに今までに見たことも聞いたこともないものを食べさせてくれますからね!」
「シゲトお兄ちゃんたちは僕を助けてくれたんだ! それにいつもおいしいご飯をお腹いっぱい食べさせてくれるんだよ!」
「ホーホホー♪」
みんながそんなことを言ってくれる。俺としてもなんだかちょっとだけ気恥ずかしい。
「……ふ~ん。確かに昨日食った天ぷらって飯とアイスクリームは今までに食ったことがないくらいうまかったな。なあ、シゲト。ちょっと相談なんだが――」
「GYAAAAAAA!」
「はあ!?」
カルラが何かを言いかけたその時、何かの生物の巨大な咆哮が周囲へと響き渡った。
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