第14話


着替え終えて部屋を出る。

ローエンさんが廊下で待ってくれていたため一緒にレオルさんの部屋に向かうのだが、何故か道中私の腰を抱いてくる。


「あの、歩きづらいです」

「んー、僕がこうしたいからいいの~」

「…そうですか」


溜め息をつきながら目的の部屋まで歩けばローエンさんが優雅にノックをする。

中から「どうぞ」という声が聞こえたため扉を開くとそこには意外そうな表情をしたレオルさんが椅子に座って何かの書類を読んでいた。


「おや、リアンさんにローエン。予想よりも早かったな」

「おはようレオル、アリッサちゃん」

「おはようございますレオルさん、アリッサ姉さん」


レオルさんの後ろで微笑んでいるのは昨日ぶりのアリッサ姉さんだ。

レオルさんは私達を見て怪訝そうな顔をした。

それもそのはず。

ローエンさんはずっと私の腰を抱いたままなのだ。


「なんだ、もう打ち解けたのか?」

「うん、ちょっとだけね!」


レオルさんの部屋に招き入れてもらいながら話を聞いていればとんでもないことを言われる。

あー…もう地底するのも面倒くさい。


「リアンさん、ローエンはあなたの事を気に入ったらしいぞ」

「あはは……それはどうも」


薄ら笑いしかできない。

あぁ、アリッサ姉さん。お願いだからそんなに不安そうな顔で見ないで。


「さて、そろそろ本題に入らせてもらうが、ローエンは何故リアンさんを連れてきてもらったか分かっているな?」

「うん!リアンちゃんの能力のことでしょ?」

「そうだ。リアンさん、単刀直入に言うがあなたはこの世のものではないものが見えるでしょう?」

「…」

「リ、リアン…?」


レオルさんの言うことに心当たりがあった。私は昔から見えるべきではない人ならざるもの_幽霊や精霊などが見えていた。




死にたくないと言い続ける死者の声。

人間を食料としか見ていない化け物の姿。



…そして、ローエンさんを契約を結んでから屋敷の周りに現れるようになった精霊たちが言う『花嫁様』という言葉。




耳を塞ぎたくても聞こえてしまうつんざく声が嫌だった。



「そんなもの見えていませんよ」

「嘘をつく必要はないぞ」

「見えないと言っているのに信じてくださらないんですか?」


怒りそうになる心をなだめ精一杯の笑顔を向ける。


今までも何度もこうして生きてきたんだ。

それすらも見抜いているかのように細められるレオルさんの目を見つめ返す。


しばらくの沈黙を破ったのは意外にもローエンさんだった。


「もーやめてあげてよレオル!リアンちゃんの子と責めないであげて!」

「しかしだな」


「リアンちゃんなら僕が守る」


凛とした声が確かに聞こえた。

ただその言葉を素直に受け止めることは出来ない。


それは私がいなくなったり、死んだりするとあなたが困るからでしょう。


そんなこと言えるはずもなくとりあえず礼を伝えた。


「リアン…」

「アリッサ姉さん。ごめんね急に分からない話になっちゃって」

「ううん、いいのよ。……でも気をつけてね。何かあったらすぐに言ってちょうだい」

「ありがとう」


私が落ち着きを取り戻したとき、ちょうど部屋の扉が雑に開けられた。

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