第11話 クロエside


夜、誰もが寝静まったころ突然扉を強く何度も叩かれる。

戦地にいた時に似ているそれはあたしたちの恐怖を煽るのに十分だった。


先程までぐっすり眠っていた面影も見せないほど顔を引き攣らせたアリッサお姉ちゃんに抱きしめられる。

リアンお姉ちゃんはあたしたちを守るように扉に向けて身構える。


「おい!!いるんだろ!!」

「お、お姉ちゃん…」


抱きしめ返しながらも声の主や話し方で誰かは分かっていた。

ここまで乱暴なことをするのはあの人_ツィガさんしかいない。


「クロエ、ここを開けろ」

「ちょっとツィガ。そんな言い方しないであげてよ。リアンちゃーん、ローエンだよ。出てきてほしいな~」


どうやらローエンさんもいるようだ。

リアンお姉ちゃんはローエンさんの声に気づくとベッドから降りて扉の方に行った。


「リアン」

「…大丈夫。ここで生きていくなら彼らとも親交を深めなきゃ。それに、うちらにはレオルさんもいるじゃん」


こちらを振り返り笑うリアンお姉ちゃんの手は震えていた。そうだ、リアンお姉ちゃんだって怖くないはずがない。

なのに気丈に振舞っているのだ。


あたしも、覚悟が決まった。


「アリッサお姉ちゃん。あたしも行くね。ありがとう」


抱きついていた体を離した。

冬も近いからなのか一層寒く感じた。


「リアン!クロエ!」

「ありがとう姉さん。大丈夫だよ、うちらは吸血鬼と契約を結んだ。死ぬことはないよ」

「うん、本当に殺す気ならあたしたちはもう死んでると思うの」

「リアンちゃん?クロエちゃん?そこにいるの?」

「今、開けますね」


扉を開けるとそこにはやはりローエンさんがいた。

そしてその後ろには不機嫌そうにツィガさんも立っていた。


「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした」

「ううん、こっちこそ夜にごめんね。人間にとって夜は寝る時間なのに」

「あの、用件は…」

「僕たち今帰ってきたところなんだけど、皆が自室にいなくてびっくりしちゃって。お願いがあるんだけど夜寝る時は自室か、予め僕たちに教えてくれないかな?吸血鬼と契約を結んだ

人間が誘拐される事例も少なくないし、僕たちもパートナーが攫われると相当まずいんだ。」

「じゃあうちらが屋敷から出ないように言われているのも」

「うん、誘拐されないようにだよ。ここにいれば守ってあげられるしね」


そう言って彼はツィガさんを振り返った。


「ツィガも、約束したいこと言った方がいいんじゃない?」


ローエンさんが1歩下がるとツィガさんが近づいてきた。

勿論用件はパートナーであるあたしに伝えられるだろう。


「…お前はいい」

「へ?」

「お前の自室は俺の許可がない限り使うな」

「え、じゃあどこで寝れば…」

「俺の部屋。狭くないし、お前ぐらいなら寝られるベッドだからな」


まさかの答えにあたしは言葉を失った。

いや、流石にそれはダメだろ。いくらパートナーでも異性と同じ部屋とか……


しかし彼の表情を見る限り冗談を言っているようには見えなかった。


「ふぅん?」

「何だ」

「別にぃ?ツィガ、可愛いもの好きだもんねぇ」


ローエンさんがニヤリとした笑みを浮かべた。それを不快に思ったのか、眉間にシワを寄せて睨むツィガさんはやはり迫力がある。

慣れているのかローエンさんは飄々としている。


「じゃあ部屋に行こうか」

「今からですか!?」

「うん、僕もリアンちゃんの部屋の内装とか見たいし!」


そう言ってリアンお姉ちゃんは連れていかれた。

それを見届けてからツィガさんはあたしをまた担ぎ上げた。


「また担ぐんですか!?」

「うるせぇ騒ぐな」


そんな無茶な。

アリッサお姉ちゃんの心配の声が扉越しにかかるが心配させたくなくて「大丈夫!」と返した。




担がれたまま初日に説明されたツィガさんの部屋に着くとそのままベッドに放り投げられた。


「痛っ!」

「大して痛くないだろ」

「……」


この人、絶対女…っていうか、人間の扱い方を知らないでしょ。

そんな事を思いながら起き上がるとツィガさんはいきなり服を脱ぎだした。


「え、ちょ、何してるんですか!?」

「見て分かんねえの?着替えだよ」


そう言うとあたしの目の前で着替え始めた。

いや、確かにパートナーという関係にはなったけど、そんな堂々と脱がないでほしいというか。


「あのさ」

「な、何…」

「お前は俺を煩わせるな。忘れたのか、俺の意思1つでお前の家族は死ぬんだ」


そう言われてあたしはハッとする。そうだここでは自由があるようでないんだ。

彼がこちらを見ていない事を良いことにあたしは小さくため息をつく。


まぁ仕方ないか。

お姉ちゃんたちが生きてくれるなら私は何だってする。

レオルさんとローエンさんはいい人そうだし、私が我慢すればいい。


「俺はもう寝るからお前も寝ろ」

「……分かりました」


気づけばツィガさんは着替えを終えており、ベッドに入ってしまった。

ベッドの縁に座っていた私はソファーに移動した。

今日はここで寝よう。ソファーでも十分寝られる広さがあり、昔のように丸まって寝る。

あの時よりも環境は格段に良いはずなのにどこか寒く感じた。


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