第9話


しばらく経ち、私たちが落ち着いてから彼はゆっくりと口を開いた。


「して、なぜあの時あれほど傷だらけだったのか聞いてもいいかい?」

「あの時は地雷に囲まれてて…近くで走って逃げていた子どもが踏んだ地雷の爆風で怪我をした上に、他の地雷も誘爆されて動けなくなっていました」

「そこで我々が願いを叶えたと」


レオルさんは頷きながら何か考えているようだった。


「では読み書きは難しいか?学ぶ時間もなかっただろう」

「私は…簡単な文なら書けます」

「うちは読めるし書けます」

「あたしは全く…で、でも簡単な単語ぐらいなら読めます!!」

「単語を読めるだけでも相当素晴らしい。しかし言葉遣いは丁寧なように感じるがそれは…」

「私たちは大人と接することが多かったので。できることや使えそうなスキルは学ぼうと思っていまして」


レオルさんの目がギラリと光った気がしたが、何にその反応を示したのか分からない。

しかし彼は目を伏せると次の瞬間には満足そうに笑みを浮かべた。


「そうか。ほら、紅茶も遠慮なくお飲みなさい。冷めてしまうさ」


彼が飲むのを見てから私も彼と同じように紅茶を口に含んだ。

温かい飲み物を飲むのはいつぶりだろう。


美味しい……


レオルさんは私たちが紅茶を味わっている間、じっと見つめてきた。

その視線がなんだか居心地悪く感じたが、我慢していると不意に彼の口角が上がった。


「ようやく何か口にしてくれたな」

「え、あ…」

「いやいや毒とかは入っていないよ。ただ、昨日は水も飲んでくれなかったから嬉しくてな」


そう言って笑った。

確かに喉は渇いていたけどそんなに水分を取っていなかったかな…。


「まぁそれはおいといて。君たちはこれからどうしたい?」

「え?」

「私としてはあなた方に文字の読み書きを含めた様々な知識や教養を与えたいと思っている。勿論、あなた方の同意の元でになるがな」


思わぬ提案に私たちは顔を見合わせる。


「い、いいんですか?」

「あぁ。これでも私は暇をしているものでね。長生きしていると趣味さえも飽きてしまうものさ」

「レオルさんは一体いくつなんですか?」

「んーいくつだっけな。もう覚えていないさ。600歳くらいまでは数えていたがな多分それの倍以上は生きていると思う」

「ろっ!?」


そんなに年上だとは思わなかった。見た目は20代前半にしか見えない。

驚いている私たちにレオルさんは微笑んで言った。


「だが料理に関しては私が必要としていない故知識がなくて教えてやれないんだ。すまないな」


私たちはブンブンと首を横に振って否定する。

そんなことまでしてくれるなんて思ってもみなかった。


レオルさんはとてもいい人だと思う。

だからこそ、妹のパートナーと変わってあげたい。


失礼かもしれないが、それほど差があった。


「本当にありがとうございます」

「いいんだ。では早速始めようか」

「え?あの、家事は?」

「まずはあなた方が生活で不自由を感じないことが大切だろう」

「…本当にうちらに教えてくれるの?」

「あ、あたし…物覚え悪いよ?」


不安そうなリアンとクロエを安心させるようにレオルさんは少しおどけて見せる。


「大丈夫だ。私は教えることは上手いぞ。ローエンとツィガにも教えたんだ」

「そうなんですか!あの2人はどういう経緯でここに…」

「それは本人に聞いた方がいいだろう」


そういうとレオルさんはソファーに置いてあった本を目の前に置いてくれた。

私たちが文字を学ぶことを受け入れることが分かっていたのかすでに用意していたようだ。


「では最初は基本の文字から。折角なら読める2人も基礎から学んでみないか?」


その言葉に頷き、私たちは慣れない手つきで表紙を捲った。


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