第8話
次の日、私たちは起きてすぐに一度解散して各々の部屋に用意された服に着替えた。
これもまたいい素材の服で汚してしまわないか気になって仕方ない。
私に与えられた自室は簡素な造りだが所々に絵画が設置されている。
昨日目が覚めたレオルさんの部屋に雰囲気は近かった。
再び共同部屋に戻ろうと自室から廊下に出た所でちょうど隣の部屋からレオルさんが出てきた。
「おや、おはようアリッサさん」
「おはようございますレオルさん」
「よく眠れたかい?」
「はい。共同部屋のベッドが広いので3人で寝ても十分な広さでした」
「それは良かった。そうだ、ちょっと話があるから談話室に皆で来てもらってもいいかい?急がなくていいからね」
「分かりました」
共同部屋に戻るとすでに2人とも着替えて私を待っていた。
先程の会話をそのまま伝えると少々難色を示したものの大人しく談話室に向かうことになった。
「失礼します」
「おっ、思ったより早い到着だったな」
部屋にはレオルさんしか見当たらず、妹たちは不安そうに視線を忙しなく動かしている。
「ローエンとツィガなら昨日の夜から1ヵ月程屋敷を離れることになった。しばらくは帰ってこないから安心して過ごしてくれ」
その視線に気づいたレオルさんから伝えられたのは、あの2人の吸血鬼が屋敷を1ヵ月離れたという話だった。
突然の朗報にリアンとクロエがほっと肩の力を抜いたのを感じた。
もしかしてレオルさんと2人が喧嘩でもしたのだろうか。
「え、っと…」
「アイツ等も他人と関わるのが久々だったからな。ちょっと頭を冷やすついでに腹も満たしてくるだろうから気にしないでくれ」
「ありがとうございます」
どうやら昨日のやりとりから妹たちに配慮してくれたらしい。
リアンとクロエが頭を下げるとレオルさんは優しく微笑んでから座るように促してくれた。
「早速だが今日はお嬢さん方に色々聞いておこうと思ってな」
「?」
「なに、難しいことではない。共に生活する上で不自由がないようにと思ってな」
レオルさんはその言葉と共に紅茶を用意し、差し出してくれた。
そんな高価なものを飲んだことがない私たちに「熱いから気を付けてな」と付け加えてくれた。
「ではまずお嬢さん方の名前を教えてくれないか?アリッサさんは確認が取れているからいいぞ」
「あたしはクロエです」
「うちはリアンと言います」
「クロエさんにリアンさんだな。次からは辛い質問になるがいいか?」
「…私たちに答えられる範囲なら」
「あなた方は生まれた時から一緒にいるのか?」
その質問に思わず言い淀む。
しかし誤魔化したところできっとバレる。
そう思い、本当のことを話すことにした。
「私たちは…生まれた時から戦争孤児です」
「ちょっと姉さん!」
「いいの。多分隠してもいずれバレるよ」
「…聞いてもいいのか?」
「はい。私たちは3人とも戦争孤児で、戦地から避難したときに出会いました。血の繋がりはありませんが、姉妹には変わりないので」
「姉さん…」
「アリッサお姉ちゃん…」
こればかりはどうしようもない事実だ。
目を伏せる私たちを見てレオルさんは何度か頷いた。
「うん。大いに結構。過酷な環境でよく生きてくれた」
「……軽蔑しないんですか?依存しあって気持ち悪いとか」
「何故そのようなことを言うのだ。あの戦禍を生きようとしたあなた方の努力は並大抵なものではない。それに吸血鬼とはいえ私は血の繋がりはあまり重視しておらん」
あっけからんと言うレオルさんの言葉に私たちは泣きそうになった。
今まで同じ境遇の人たちからは「依存しあって気持ち悪い」「女の子どもが生き延びても意味がない」と言われてきた。
だからこうして褒められてきたことなどなかった。
鼻をすする私たちが落ち着くのをレオルさんは紅茶を飲みながら気長に待ってくれた。
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