第7話 アリッサside
全員契約が終わり再び談話室に集まった時、クロエが変に大人しかった。
何かあったのか聞こうにも本人は「大丈夫」の一点張りで何も話してくれない。
リアンも違和感を覚えたらしいがこの話は後日ということで収まった。
「ではまずはこの屋敷について説明しようか。お前たちも一応聞いておくように」
「はーい」
「…分かった」
ローエンさんとツィガさんの返事を聞いてからレオルさんは私たちに向き直った。
「まずお嬢さん方の部屋についてだ。部屋はそれぞれのパートナーと隣接した部屋で頼む。何部屋使ってもらっても構わないが、1部屋は必ず隣接しているように」
私たちは頷いて反応を示した。
それを見てレオルさんは続ける。
「次は食事についてだ。我々は食事はとらないから自由にとってくれ。食材は言ってくれれば用意する。あとはお嬢さん方には家事全般をやっていただきたい。話を聞いたとは思うが対価には家事もカウントされるからな」
「対価?」
「クロエ?どうしたの?」
「お姉ちゃん、対価って何?」
「説明受けてないの!?」
「うん」
思わずレオルさんの方を見れば下を向いて目元を抑えていた。
それからその体勢のまま低い声で今1番責められるべき彼の名前を呼ぶ。
「…ツィガ」
「なんだよ」
「クロエさんに説明していないのか?」
「ちょ、なんでレオルが怒るんだよ」
「はー…もういい」
「うちらが説明しておきましょうか?」
リアンが挙手をしてレオルさんに提案する。
レオルさんは申し訳なさそうにしているがリアンの提案に頼ってくれた。
「じゃあ説明はリアンさんに任せるとして…。話を戻すと、家事については無茶なことは言わないから安心してくれ」
「使用人はいないんですか?」
「基本的に家事を必要とすることがなかったのでな」
ならどうして私たちに家事をさせるのだろう。
浮かんだ疑問を問うていいのか悩んでいると話はそのまま進んでいく。
「あと各々の部屋にある物は自由に使ってくれ。間違っても床で寝たりしてくれるなよ?」
レオルさんの言葉にリアンの肩が少し揺れた。
どうやらその気だったようだ。
姉をしても風邪をひかれるのは心配だからせめて温かくして寝て欲しい。
「で、最後に。絶対にこの屋敷から出ないこと」
その言葉で部屋は水を打ったように辺りは静かになった。
そんなの、どうやって暮らせばいいのだろう。
私の心中を察したかのようにレオルさんは続けた。
「この屋敷だけでもそこそこの広さがあるし、庭になら出てもらっても構わない。ただ、この屋敷を囲んでいる塀から外には何があっても出ないでほしい。必要な物や欲しいものがあるなら我々が揃える。金ならあるし、何でも言ってくれて構わない」
「「「分かりました」」」
疑問に思うこともあったが、今は受け入れるしかない。
私たちが声を揃えて答えたことで話は終わった。
その夜、私たちはレオルさんに頼んで貰った広い共同部屋で過ごしていた。
机がある中央では何となく不安で、いくつかのクッションを抱きしめながら部屋の隅に集まって身を寄せ合う。
今までの様な命の危険はないが、がらんとした部屋は何となく不安にさせる。
クロエの髪に手櫛を通していればふとリアンが口を開いた。
「それぞれに部屋もらった上に共同部屋まで…いいのかな?」
「レオルさんがご厚意で用意してくれたんだし断る方が申し訳ないよ」
実はこの共同部屋だけでなく個々の個室も用意してもらっているのだが今更1人は寂しい。
それに自室で何をして過ごせばいいのか分からない。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「対価の説明はリアンお姉ちゃんの説明で分かったんだけど…あたしたち脅されてない?」
クロエは不安そうに言った。
不安そうに揺れるその瞳には疑念が浮かんでいる。
「……どういうこと?」
「だって……それにあたしたち戦争孤児だったんだよ?こんなに良い待遇…おかしいよ」
「うちもそれは気になってた。契約だって命を出されたら抵抗できないよ。アイツ等はそれを分かって提示してきたでしょ」
「でもここは穏便にいかないと。もし歯向かったりしたら今度こそ死ぬかもしれないよ」
私だって疑っていないわけではない。
ただ情報を必要としている今、吸血鬼であり契約について熟知している彼らに抵抗するのは得策ではないと思うだけだ。
「…とりあえず、明日からの家事を頑張ろう。私たち家事とかやったことないから…」
「そうだね。怒られるのは嫌だし」
「あたしも頑張る!」
3人で顔を見合わせて笑った。
今はこの状況を受け入れるしかない。
こんな風に生きられる未来はあの時無くなったはずなのだ。
だから現状に感謝しないと。
この子たちだけは守らないとと思った。
部屋にある大きなベッドに入ればすぐに眠気は襲ってきた。
皆で身を寄せ合えば冷たかったすぐに温かくなる。
こんなにふわふわなベッドで眠れる日が来るなんて思わなかった。
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