第6話 クロエside


「嫌だ!!離して!!!」



抵抗虚しく担ぎあげられたまま部屋に運ばれたと思えば雑に降ろされる。

床には絨毯が引いてあるけれど痛くないわけではない。


「…ほんとにうるせぇ」


ツィガさんに見下ろされる目が冷たくて痛い。

しかし、今まで晒されてきた環境と比べれば大したことないと思えた。


「まぁいいや。契約は結ぶから首出せ」


溜め息交じりにとんでもないことを言われ、思わず首を抑えながら後退ってしまう。


「ま、まって…なんで、あたし、何かしたの?」

「願っただろ。『姉たちを助けてほしい』って」

「それが何…」


頭をガシガシと掻きながら面倒くさそうに見下ろされる。


だって、何も分からない。

確かに私は願ったけれど…それが何なの?


「俺はお前の願いを叶えたんだ。それ相応の対価を払わねぇと契約不成立でさっきの2人が死ぬ」


「え…」


「それでもいいなら抵抗すればいい」



自分の身に起きていることがやっと分かった。


この吸血鬼はお姉ちゃんの命を握ってるんだ。

ツィガさんは怖い人だけど、でもお姉ちゃんの命には代えられない。



「お願い、お姉ちゃんを助けて……」



震える声でそう言えば、彼は一瞬戸惑ったような顔をした。


…なんであなたがそんな顔をするの。

私だってお姉ちゃんのためじゃなかったらこんなことしない。


「……最初から素直に従ってればいいんだよ」

「……ん」


ツィガさんの指が首を撫でた。

氷のように冷たい彼の手にびくりと肩が跳ねる。


「じゃあ契約を始めるぞ」


ツィガさんの言葉に頷く間もなく首に噛みつかれ痛みが走る。

予想以上の痛みから出そうになる呻き声を堪えるために自身の腕に強く爪を立てる。


自分が我慢すればいい。

他の吸血鬼たちは親切そうだったから貧乏くじを引けて良かったとまで思えてくる。


だって、これで家族が生きられる。

私はアリッサお姉ちゃんやリアンお姉ちゃんに比べてできることが少なかった。

今まで最年少ということもあって常に守られて生きてきた。


今こそ恩返しの時だ。

そう思えばなんだって乗り越えることができる。


「…やっとだ」


2人の生きる手助けになれることがほんの少し嬉しかった。


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