第5話 リアンside


「あー…ほら、そんなに硬くならないでよ」


談話室のような所から連れ出され、今はローエンさんの自室に連れて来られていた。

何の説明もなく連れ込まれたためこれは予測でしかないが。


「リアンちゃん、こっちおいで」


ソファーに座っているローエンさんに呼ばれたので素直に近寄れば彼は嬉しそうに笑った。


笑顔なのにどこか恐怖を感じる。

本能的に危険だと体が警告しているようだった。


それでも逆らえない私の頬にローエンさんはそっと触れた。


「リアンちゃんはどうして『姉さんとクロエを助けて』ってお願いしたの?」


その質問に嫌な記憶がよみがえる。


痛くて、寒くて、血が体内から流れ出るぞわぞわとした感覚。


それを遮断したくて質問に集中する。


「皆、あの時必死だったんです。頑張って生きてきたのに死にたくなかった。私はもう無理だと思ったからせめて2人は…って」

「うん、そっか。…僕はさ、そんなリアンちゃんの願いを叶えてたんだ」


姉さんではなくうちの願いを…?


彼の言葉に下がりつつあった顔を勢いよく上げる。

彼は変わらず柔和な笑みを浮かべている。


「!…だから2人とも生きてるんですか?」

「そう。だけどその2人もリアンちゃんのことを願った。だから今リアンちゃんは生きてるの」



つまり私たちは死にかける中お互いの生存を願ったようだ。


アリッサ姉さんはクロエと私の命を

クロエは姉さんと私の命を

私は姉さんとクロエの命を救おうとした。


各々が願った故、個々の契約がそれぞれの吸血鬼と行なわれている…ということだろうか。




「そうなんですね…」

「うん。だからね、契約を結んで、僕に対価を払ってほしい。リアンちゃんが僕と契約を結んでくれないと契約無効で2人とも死んじゃうの」

「…」


つまりうちの選択肢なんてあってないようなものだ。



「言ってる意味、分かるよね。多分リアンちゃん馬鹿じゃないでしょ?」



にこりを笑うと目が細まる。

それが怖かった。


目の前の男は吸血鬼だ。

つまり、人間ではない。


そんな奴らと契約を結ぶという行為の危険性を理解していないほど馬鹿ではない。

それを理解した上で、この男は自分と契約を結べと言っているのだ。



この世で最も大切な2人の命をタテにして。



「…拒否権なんてないでしょう」

「本当に頭いいね。こんな簡単に話が進むとは思わなかったよ」


この男に何を言ったところで無駄だ。

私は現状、この男よりも立場が下なのだ。


ならば、自分を犠牲にすればいいだけの話。

それで2人が生きられるんだ。


深呼吸をして息を整える。

どうせ逃げられないのならば従順でいよう。

きっとそれで楽になる。


大丈夫、あの2人と姉妹になった日から覚悟は決めている。



「契約を結ぶ覚悟が出来ました。お願いします」


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