第4話



「ど、どうしよう…」

「私も妹君たちを助けたいとは思っているがすまない。契約に関しては介入できないんだよ」

「契約?」

「予定では今までの経緯を説明してから吸血鬼である証明として契約を交わそうかと思っていたのだが、よく考えればあなた方が疑問に持たないはずがなかったな。申し訳ない」


ローエンさんとツィガさんに比べるとレオルさんは本当に紳士的だ。

少なくとも話が通じそうな人が1人いて助かった。


「私たちはあなた方の願いを叶えた。あの時あなたが『2人を助けて欲しい』という願いを口に出してくれたことで何の因果か2人の心中の願いにも干渉できたのだ」

「つまり、私だけでなくリアンとクロエの願いも叶えたということですか?」


何とか汲み取った情報を確認のため投げかけると頷かれる。

話が難しいがこれから追々分かるのだろうか。


「そういうことだ。吸血鬼というものは人間の願いを叶え、その対価をもらう。対価は血液から労働まで色々あるが、今回に関してはちょっと例外でな。パートナー契約というものを結ぶ必要があるんだ」

「パートナー…契約」

「先ほどあいつ等が妹君を連れて行ったが、ちょうどその2人がパートナーだ」


難しい話に首を傾げていたが、妹があの吸血鬼2人とパートナーになるということに思考を全て持っていかれる。


「待ってください!パートナーって…あの子たちはまだ幼すぎます!」

「そう言われても…そもそもあなた方の年齢を存じ上げない」

「…正確な年齢は分かりません。でも、あの子たちは十分な大人とは言えないでしょう」

「それはあなたも一緒でしょう」


自然な動きで腕を取られる。

白い手袋をしている自分よりも大きな彼の手に思わず肩に力が入った。


「あなただって我々に比べたらまだ幼い。ようやく成人すると言ったところだろう?私から見たらまだ赤子と変わらない」

「そういうことじゃなくて……そもそも契約って具体的に何をするつもりなんですか?」

「血の契約を交わすだけだ。」

「血の契約……?」


再び分からない言葉に戸惑ってしまう。

先程から話が難しすぎる。


「あぁ。そういえば人間には馴染みのないものだったな。簡単に言えば契約を結んだ人間と吸血鬼はパートナーとなり、吸血鬼はパートナーの人間の願いしか叶えることが出来なくなる。代わりに人間はパートナーとなった吸血鬼に定期的に血液を上げる必要がある。そのための契約だ」

「そんなことしなくも私たちは…」

「忘れたのか?あなた方は例外なんだ。瀕死の人間を回復させるには相当な力が必要だ。そして願いを叶えてしまった今、あなた方は我々と契約を結ばなければ…死んでしまう」

「は?」


レオルさんはまっすぐこちらを見ていた。

嘘をついているようには見えない。


だからこそ、この話は残酷なものだった。


「契約が無効になれば貴女が願いを口に出した瞬間に戻る。…もちろん、妹君も」

「…じゃあ私だけが契約を結べばいいじゃないですか」

「そうはいかないんだ。吸血鬼は一度に複数人の願いを叶えられない。さっきもいったが、妹君もそれぞれ、互いのことを願ったんだ。それを叶えた。リアンさんの願いをローエンが、クロエさんの願いをツィガが」

「あの子たちにも犠牲になれと!?」


「…では死ぬのか?」


その言葉に何も言えなくなった。


妹には生きてほしい。

あの子たちは私がこんな世界でも生きていられる理由だった。


震える体を押し殺し、口を開く。


「本当に、妹は生きられるんですね」

「あぁ。約束する」


あの子たちだけではない。

私も共に犠牲になればいい。

それだけだ。


「レオルさん、あなたと契約させてください」


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