第3話


「さて、話を戻そうか!君たちは戦火の中心にいた。で、そこのアリッサちゃんが僕らにお願いしたの。覚えてる?」

「あ…」


リアンとクロエが怪我をした上に逃げ場を失ったあの時、確かに『誰でもいいから妹を助けて』と願った。


「まさか…本当に願いを…」

「うん!そういうこと。アリッサちゃんの『誰でもいいから妹を助けて』っていうお願いの『誰でも』に僕たちは含まれたからさ」

「じゃああなたたちは…神様?」


そういうとローエンさんは可笑しそうに笑った。


「いやいや、僕たちはアイツ等とは違うよ。僕たちは吸血鬼。だから瀕死のリアンちゃんとクロエちゃんを助けることが出来たんだ」

「吸血…鬼?」

「姉さん、吸血鬼なんて信じるの!?うちは信じれない!」


リアンに肩を揺さぶられる。

しかし目の前の人たちの美しさ、そして傷ひとつない体を見ると変に納得できる部分もあった。

吸血鬼なんて物語の存在だと思ったが彼らから人間離れした雰囲気は確かに感じる。

それに死にかけていた2人を回復させた上に怪我が完治している体を見ると信じざる負えない。


「まぁ信じられないよね。普通は」

「…今は信じます。むしろ人間がここまでのことできたらそれはそれで怖いので」

「ありがとう。じゃあちょっと待っててもらっていい?こっち3人で話すことあるからさ」


私たちが頷くとレオルさん、ツィガさん、ローエンさんは集まって何やら難しい顔で話し合いを始めた。

しかし集まるところを見るとやはり全員整った顔立ちをしている。

いっそ怖いまである。


「お前、誰にする?」

「え~僕はリアンちゃんがいいな。さっき助けたし」

「レオルは?」

「私はあとでいいさ。というか、聞きながらもう決まっているだろう?」

「…あの小さいのにする」

「小さいのじゃなくてクロエちゃん!!」

「はいはい」

「では私のパートナーはアリッサさん、ということで異論はないな?」

「うん!」

「あぁ」


私たちが分からない話が進んでいる。

しかし話を聞く限り、リアンはローエンさんに、クロエはツィガさんに介抱されていたようだ。


「2人はいつ目が覚めたの?」

「うちは半日ぐらい前。でも部屋からは出してもらえなかった」

「あたしはさっき。起きたら急にここに連れてこられたから何も分からないの…」


不安そうに言う2人の頭を撫でる。

無駄に期待を持たせることは言えないからこそ行動に起こすしかなかった。


「リアン、あの人に嫌なことされなかった?」

「うん。嫌なことどころか怪我も治ってたの」


そう言って袖を巻くて腕を見せてくれた。

私と同じように怪我が全て治っており、昔できた傷跡も無くなっていた。


「良かった。リアンは何かされた?」

「ううん、大丈夫だった。でもあたしが起きたのを確認したらあの人すぐにいなくなったから何も分かんない」


とりあえず2人に何もなくて良かった。


しかし、この人たちは何故私たちを助けたのだろうか。

吸血鬼についてよく知らないが、気紛れで人間の願いを叶えるなんてことあるのだろうか。

ただの気まぐれかもしれないが助けてもらった身としては理由が知りたかった。



「2人とも、ちょっとレオルさんに聞きたいことがあるから待っててくれる?」

「分かった」

「うん…気を付けてね」


2人の頭を撫でてからソファーを立つ。


ローエンさんとツィガさんはまだ何かを話しているようで、それを黙って傍観していたレオルさんに聞いてみることにした。

恐る恐るレオルさんに近づけば先に気づいてくれた。


「どうかしたか?」

「あの、今大丈夫ですか?」

「何かあったか?」

「…ものすごく聞きにくいのですが…」

「構わん。遠慮なく聞いてくれ」


「どうして私たちのことを助けてくださったのですか?」


その質問に彼は少し考える素振りを見せた。

そして、ゆっくりと口を開くと意外な答えが返ってきた。


「それは私にも分からん。だが、あなた方が死ぬ運命ではないと感じたからだ」

「…それだけ、ですか?」

「あとはあなたが願ったからだな。吸血鬼は口に出した願いを叶える力があるんだ。まぁ限度はあるがな」

「なるほど」

「私は運命とは言ったがあいつ等は何を考えているか分からん。正直、ツィガだけでなくローエンもなかなかな性格しているからな」

「それは何となく感じますね」

「悪い奴等じゃないんだ。だからできれば仲良くしてやってくれ」


そう言って申し訳なさそうに笑う彼を見て彼らにも色々事情があるのだと分かった。


「…善処します」

「ありがとう」

「レオル~、ツィガが契約は各々の自室でやらないかってさ」

「良からぬことを考えているんじゃないだろうな?」

「大丈夫だよ。別に食い殺したりしないって~」


「お、お姉ちゃん…助けて」

「え、クロエ!?」


レオルさんとの話を終えて振り返ればクロエはツィガさんに担がれていた。


「姉さん、」

「ちょっ、リアンも!?」


リアンはローエンさんに肩を抱かれていた。

何この状況…。


「ごめんなさいレオルさん。仲良くするのは難しそうです」

「あーうん。私もどう謝罪すればいいのか」


そうこうしている内に2人は連れていかれ、部屋には私たちしか残っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る