第2話


そのまましばらく歩いていると1つの部屋にたどり着いた。

中は広い部屋で、テーブルとソファーがあるだけのシンプルな造りになっていた。


そしてそこには


「姉さん!」

「お姉ちゃん!!」


ボロボロの姿ではなく綺麗な服を着た2人の妹がいた。

あらゆるところから血を流していたはずだが何故か怪我も治っている。


「よかった…2人とも無事だったのね」


2人の体を抱きしめると温もりが伝わってくる。

その体温に涙が出そうになるがぐっと堪える。

この幸せをあの瞬間失ってしまうかもしれなかったのだ。


「ごめんなさい……私のせいでこんなことに……」

「違う……うちがもっと早く気づいていれば」

「ううん、それだったらあたしだって……」


お互いに謝り続ける私達の謝罪を遮るようにある男が口を開いた。


「お前らさ、さっきから何言ってんの?」


嫌悪を含んだ冷たい声に半ば反射でそちらを見る。

男は足を組んでこちらを軽蔑の眼差しで見ていた。


「おいツィガ。やめておけ」

「聞いていれば『私が悪かった~』とか。過去のこと話して何の意味があるんだよ」


ツィガと呼ばれた黒髪で端正な顔立ちの男は呆れたような表情でこちらを見つめていた。


「過去を振り返るより今を見た方がいいぞ。少なくとも俺たちとは命の長さが違うんだし」

「あなた…何が言いたいんですか」


部屋の空気がピりついたものになった時、レオルさんが助け舟を出してくれた。


「ツィガ、その辺にしておけ。あなたも、妹君の前で喧嘩はお止めなさい」


そう言われればツィガさんは舌打ちをして足を組み直した。

私も妹たちになだめられて何とか冷静になる。

レオルさんに促されて3人で大きめのソファーに座る。


ソファーに座ったこと自体なかったため慣れない感触につい動いてしまう。

それは妹たちも同じようだった。


「さて、皆が揃ったことだし本題に入ろう。単刀直入に言うと私たちはあなた方の敵ではないということだ。むしろ味方だ。」

「味方…というのは?」

「え、レオル。お嬢さんたちに説明してないの?」


先程まで黙っていた男性が首を傾げながら口を開いた。

どうやらさっきから居たらしいが上手く空気に溶け込んでいたのか今更彼の存在に気づいた。


「それを今からするんだ。大体、お前たちに任せたら少なくともツィガは説明しないだろ?」

「間違いないね。じゃあ僕から説明しようか?」

「…丁寧に頼むぞ?」

「任せてよ。じゃあ僕から説明するからお嬢さん方は頑張ってついてきてね」

「お願いします」


レオルさんと親しげに話す男性は他の人に比べると柔らかな雰囲気を感じさせた。


綺麗な緑眼に緩く巻かれた茶髪。

ツィガさんに比べると接しやすそうだ。


「あ、僕はローエン・シュナイザーっていうんだ。よろしくね。お嬢さん方の名前を聞いてもいい?」

「私はアリッサと言います。こちらは妹のリアンとクロエです」

「…リアン、です」

「……」

「クロエ、挨拶しよ?」

「ふふっ、いいよ。無理強いするものでもないし。…3人は姉妹なんだね?」

「はい」


「違うだろ」


またしても口を挟んできたのはツィガさんだった。

どうやら徹底的に嫌っているようで睨んでくる。


「姉妹ならなんで3人から全く別の匂いがするんだよ」

「匂い…?」

「ツィガやめようよ」

「お前らだってそう思ってるんじゃ、」


「ツィガ」


レオルさんは先ほどまでとは全く違う、恐ろしいまでに低い声で名前を呼んだ。

それだけで思わず鳥肌が立ちそうな声音だった。


「それ以上言うな。腹が減っているなら隣町でも行くがいい」

「……チッ」

「無礼な態度で申し訳ない。あとで言っておく」

「い、いえ…大丈夫ですよ。それよりも匂いってどういうことですか?私たちには分からないのですが…」

「あー…どうする?」

「いやいいさ。これは今言わなくていい」


それを聞いて頷いたローエンさんは切り替えるように手を叩いた。

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