第1話 アリッサside
「…………ん」
定まらない視界のまま目を覚ます。
見慣れない天井にいつもとは違う床の感触。
寝返りを打てばそこはいつも寝ているような布を敷いただけの地面ではなく柔らかなベッドだった。
「おぉ、起きたか」
驚いてベッドから上半身を起こすと部屋にある椅子に腰かけた金髪の美しい男性がこちらを見ていた。
その男性は私が起きたことに気がつくと立ち上がり、テーブルに置いてある水の入ったコップを渡してきた。
「喉が渇いているだろう。飲むといい」
「……」
「まぁ、警戒するのも無理はないか。ここに置いておくからな」
サイドチェストの上に置かれた水は無害そうに揺れていた。
それを見つめていると男性は話しかけてきた。
「体調の方はどうだ?どこか痛むところとかはないか?」
「……どなたですか?」
そう尋ねるときょとんとした顔で見つめられる。
「おや、覚えていないのか?」
「?」
「まぁ、ローブを被っていたから仕方ないか。そうだ、先に行っておくが勝手に着替えさせてもらったぞ」
「えっ!?あっ!そういえば!」
慌てて自分の格好を確認する。
汚れひとつない白いワンピースのようなものを着ており、私の記憶にあるような薄汚い布切れのような服ではなかった。
それに髪も整えられていて体に着いていた汚れも消えている。
っていうかこの服シルクじゃ…。
「…体見たんですか?」
「変な誤解はしないでほしい。着替えさせること以外に何もしていない」
「…でも、……」
「うむ。では警戒しているというのならば説明しようか」
「待ってください!!…あの、妹は…」
「妹というのはあなたと共にいたお嬢さん方のことか?彼女たちなら私の友人が付き添っているさ。安心してくれ」
「…」
信用できない、が私への対応も踏まえとりあえず信用してもいいのかもしれない。
「『信用できない』という顔をしているな」
上品に笑う彼に変な罪悪感を覚えてしまう。
まるで私の心を見透かしたように話す彼に私は目を合わせることができなかった。
「ではまず自己紹介をするとしよう。私はレオル・タンジーという」
「タンジー様……」
「敬称はいらないよ。気軽にレオルと呼んでくれ」
「……分かりました」
「あなたの名前は後で聞くとしようか。さて、事情を理解してもらうためにも妹君と共に説明を聞いてもらおう。よろしいかな?」
「!…はい。お願いします」
返事をするとレオルさんは私の手を取ってベッドから降ろしてくれた。
周りを見渡すと部屋には明らかに高そうな家具や絵画が見られる。
どれだけ見ても安そうなものが見つからない。
それに衣服までも高そうだ。
部屋と一体化していて気づかなかったが、よく見るとレオルさんは美しい蝶が彫られた木製の杖を突いている。
「ありがとうございます。…あの、足が悪いんですか?」
「ん?あー…まぁなんだ。お守りみたいなものでな。体に不自由はない。」
はぐらかすように言う彼は困ったように頬を掻いた。
レオルさんは一種の美術品の様な美しい顔立ちをしているが感情が表れると人間味が増す。
そんな変化に見惚れていれば彼は悪戯に笑った。
「もし急に立ち上がって辛かったら使ってもいいぞ」
「え、いや、そういう意味ではないので!大丈夫です!」
「そうか。ならいいさ」
そのまま手を引かれて廊下に出た。
外はもう夜なのか真っ暗だ。
「今から行くところは談話室だ。これから幾度となく使うだろうから覚えておくといい」
「幾度となく…?」
私の言葉は拾われることなく溶けていった。
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