小学生に『俳句』を作らせたら想像以上に酷かった件
me
俳句
「うーん、今日も疲れた……」
自宅に帰って早々、僕は倒れるようにソファーに横になった。
授業が終わり帰宅するころにはもう日が落ちており、体はすっかりクタクタだ。何年教師という仕事を続けても、この疲れには慣れない。
「......」
しかしまだ、休めない。まだやるべき仕事が残っているからだ。
「......さて、課題のチェックだけするか」
僕はおもむろにソファから立ち上がり、カバンからプリントの束を取り出す。
今日の国語の授業で『俳句』について取り扱った際、児童に俳句を作るという課題を出した。その課題プリントがこの紙束である。
春夏秋冬どの句でも良いので、好きに俳句を作るという内容だ。季語を使って、しかも決められた文字数で情景を表現するという大人でも難しい課題。果たしてみんな、きちんと作れたのだろうか。
僕は不安を抱えながらも、提出された1枚目のプリントに書かれた俳句へと目を向けた。
────────────────────
春
風
に
────────────────────
────────────────────
か 春
お 風
る に
桜
の
────────────────────
────────────────────
あ か 春
た お 風
た る に
か 桜
さ の
────────────────────
「おっ、いい感じ!」
想像以上の出来の良さに、思わす感嘆の声が漏れた。
僕は俳句に関しては素人なので、専門的な添削はできないが、素人目に見て、これは読むだけで情景が浮かんでくる良い句だなと感じる。
少し難しい課題だと心配していたが、これなら問題ないのかも知れない。僕は次のプリントへと目を向けた。
────────────────────
す
ご
く
き
れ
────────────────────
『きれ?』
疑問に思いつつ、続きへと視線を向ける。
────────────────────
い い す
て な ご
い さ く
ま く き
す ら れ
が
さ
────────────────────
「なるほど......これはダメかなぁ」
残念ながらこれは俳句ではない。17文字の文章を『5・7・5』の型に無理やり改造しただけた。句から「コロシテ......」という声が聞こえてくる。
「次見るか」
僕は気を取り直して、次のプリントへと視線を移した。
────────────────────
桜
だ
ぜ
────────────────────
『だぜ???』
────────────────────
き 満 桜
れ 開 だ
い じ ぜ
だ ゃ
な ね
え
か
────────────────────
「ワイルド過ぎるだろ」
しかもワイルドなだけで、全然中身がない。「満開の桜が綺麗だね」と言っているだけだ。
これも不合格だ。僕はプリントの束をめくり、次のプリントへと視線を移した。
────────────────────
満
開
の
────────────────────
『うんうん』
いい感じの入りの句だ。
────────────────────
桜 満
を 開
全 の
部
────────────────────
『どうするんだろ』
────────────────────
む 桜 満
し を 開
っ 全 の
て 部
み
た
────────────────────
「なんでだよ!」
絶対やっちゃダメだろ。自然破壊系YouTube?
あまりに
────────────────────
は
ら
へ
っ
た
な
ぁ
────────────────────
『5・7・5をいきなり忘れてんぞ』
────────────────────
あ は
っ ら
女 へ
の っ
子 た
だ な
ぁ
────────────────────
────────────────────
か あ は
わ っ ら
い 女 へ
い の っ
な 子 た
ぁ だ な
ぁ
────────────────────
「なんだこれは」
食欲と性欲に生きる蛮族の句? よく見たら季語も無い。僕はため息をこぼした。
春が題材の句がダメなのだろうか? 別の季節を見てみよう。
そう思い立ち僕はプリントを何枚かめくる。そうして「もみじ」という秋の言葉が出て来たところで手を止め、そのプリントに視線を向けた。
────────────────────
も
み
じ
見
る
母
────────────────────
『おっ、情景が浮かぶなぁ〜』
しかもいきなり字余り。なんだかテクニックを感じる。
────────────────────
瞳 も
に み
映 じ
る 見
は る
母
────────────────────
『いったいなにが映ってるの?』
────────────────────
き 瞳 も
し に み
ょ 映 じ
い る 見
虫 は る
母
────────────────────
「
確かにきしょい虫がいたら目は奪われるけど。
母がきしょい虫さえ見てなければ素晴らしい句になっていたのに......。次、次! 僕はプリントをめくった。
────────────────────
耳
千
切
り
────────────────────
『急に何があったんだよ』
────────────────────
指 耳
先 千
壊 切
死 り
す
────────────────────
『雪山で遭難してる?』
────────────────────
秋 指 耳
風 先 千
や 壊 切
死 り
す
────────────────────
「秋風はそんな冷たくない!」
「
次! 僕はプリントをめくった。
────────────────────
秋
深
し
────────────────────
『うんうん、良い感じ!」
────────────────────
や 憲 秋
る 法 深
な 改 し
り 正
を
────────────────────
「秋関係ないだろ!」
なりってなんだよ。思想に狂ったコロ助? 季語ノルマを達成するためだけに良いように使われた秋が哀れすぎる。
秋もダメだ。別の季節を見よう。僕は気持ちを切り替えプリントをめくり、冬という言葉が見えたところで目を止めた。
────────────────────
冬
空
を
────────────────────
『入りは悪くないぞ』
────────────────────
流 冬
れ 空
て を
い
る
物
────────────────────
『おっ、流れ星か?』
────────────────────
飛 流 冬
蚊 れ 空
症 て を
い
る
物
────────────────────
「
それは冬の夜空を流れてるんじゃなくて、君の目の中でゴミが流れてるんだよ。眼科行ってください。次、次!
────────────────────
神
社
裏
────────────────────
『うん、静かでロマンチックかも』
────────────────────
お 神
札 社
を 裏
埋
め
た
ら
────────────────────
『なにやってんだよ』
────────────────────
呪 お 神
わ 札 社
れ を 裏
た 埋
め
た
ら
────────────────────
「当然の末路だろ」
勝手に呪われてくれ。あと季語はどれだよ。どうやら冬もダメみたいだ。次の季節! 僕はプリントを必死にめくった。
────────────────────
大
企
業
────────────────────
『季節感のない言葉だ......』
────────────────────
受 大
益 企
を 業
す
す
る
────────────────────
────────────────────
株 受 大
の 益 企
ム を 業
シ す
す
る
────────────────────
「急に社会風刺をして来たな」
受益と樹液が掛かっているのは上手いが、それはもはや川柳では? 次! 僕はプリントをめくった。
────────────────────
カ
ブ
ト
ム
シ
────────────────────
『よし、いい感じ』
────────────────────
す す カ
い す ブ
つ っ ト
く て ム
せ 中 シ
! 身
を
────────────────────
『あー終わり』
────────────────────
は す す カ
や い す ブ
く つ っ ト
は く て ム
や せ 中 シ
く ! 身
! を
────────────────────
『もうやめろ、文字数超えてんぞ』
────────────────────
ち は す す カ
ゅ や い す ブ
る く つ っ ト
る は く て ム
る や せ 中 シ
る く ! 身
! ! を
────────────────────
「はい、終了でーす」
ちゅるるるる! が出たので終わりです。ありがとうございました。採点は明日にします。僕は部屋の電気を消し、静かに目を閉じた。
小学生に『俳句』を作らせたら想像以上に酷かった件 me @me2
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