【極秘指定】■■回目 経過報告
「…以上が現在発見されている2ヶ所の時空間ポータル及び接続先の詳細です。どちらのポータルも人が通れる程度の大きさしかないため本格的な機材を搬入しての調査は困難ですが、逆に言えば敵対的実体の大規模な流入の妨げにもなっています。」
報告者である佐藤一等陸佐が最後の報告事項を述べるとスライドの電源が落とされ、会議室の照明が点灯する。
今回の定例報告会で何度目になるか、殆ど代わり映えのしない内容を毎度律儀に報告するため若干の辟易さを感じつつも、上層部と情報を共有することで上の連中を巻き込めるというメリットも理解していた。
しかし、この後に続くお決まりの文句は面倒極まりない。
上層部は、ポータルの研究に巨額の投資をしているにもかかわらず成果を挙げられていないことに納得できていないのだ。
かといって、研究から撤退して異常な存在であるポータルを野放しにすることもできない。
すると当然、佐藤一佐を筆頭に研究に当たっている「特別実験中隊」に対するプレッシャーも大きくなる。
ポータルが接続する世界の多くは、彼らの世界(基底世界)と同じような特徴を持っており、その全てが様々な要因で崩壊しているのだ。
基底世界においても同様の事象が起きないとは限らない。
世界の存続可能性を高めるためには、接続先が崩壊している理由を明確にし、その対策を打つ必要がある。
当然佐藤一佐もその目的と重要性は理解している。
ここにいる誰よりも現場に近く、実際に接続先の滅びた世界をその目で見ているのだから。
かといって、不明なものは不明である。
無人機の行動可能範囲は限定的であるし、人員を送るには安全性に疑問符が生じる。
大型の機材を搬入するにはポータルとなっている扉の大きさがネックになる。
扉の先の安全を確保し、現地で機材を組み立ててはいるものの、敵対的実体の存在によりスムーズにはいかない。
それに、ポータルは複数の世界につながるが、一度に一つの世界としか接続されない。
つまり、機材組立と新規接続先の研究を同時に行うことは出来ないのだ。
接続先の世界を無人機で探索し、本格的な調査を行うべきか判断する必要があるが、これといった決定打が無く、根本的な調査は遅々として進んでいないのが実情である。
なくしもの @64r89r
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