第7話 友達

 白色のシャツに、紺色のカーディガン、丈の長い黒のスカートを着て、黒色の高級そうなソファに座っていた。隣にはスーツを着たアオイが座っていて、目の前にはこの海星高校の校長が座っていた。女性で活発そうな校長だ。

「秋田高校から!それは、さぞ聡明なんでしょうねぇ」

 大きな眼鏡の奥ではユキではなく、アオイの方を見ている。理由は簡単で、アオイが他の平均的な男性よりも魅力的なためだろう。身長は高く、ほどほどに筋肉質で、四十代に近いというのに若々しい顔立ち。

「はい。ユキは昔から勉強が得意なようで。全国模試でも二ケタだったらしいです」

 校長は少しだけ聞きづらそうに目を細めた。

「とても聞きづらい事ではありますけれども、そのような優秀な菅原さんが、なぜこの高校に?もちろん海星高校に自信が無いわけではありません。ですが、この高校では菅原さんの学力に適しているかどうか」

 偏差値、学力、そんな話を聞くのにユキは辟易していた。やり気が無いながらユキは、両手をもてあそび「はあ」とか「まあ」とか雑に返事をしていた。

「ユキはあまり学力や偏差値という物にこだわりが無いんです。なのでそこはユキは気にしていません。それに今は母親が亡くなったショックで、勉強もままならない様子ですから、この高校に編入し、穏やかに生活できればと思っています。ね、ユキ」

 あまりに口を開かないためかアオイはユキに話を振った。

「え、はい。偏差値のいい高校にいるから正解なんてことはありません。私は勉強しかできなかったので、そこに居ただけで、他の高校に入ればよかったかもしれないと後悔もしました。なので、私がこの高校を選んだのは、妥協ではありません。校風に惹かれたので、入学したいと思ったのです」

 はっきりとしたその返事と、まっすぐの眼差しを見て、校長は肩をすくめた。アオイと顔がよく似ていたからかもしれない。血は争えないとも思ったのかもしれない。

「ユキもそう言っていますから」

「ええ、そうですね。それほどにウチの校風に惹かれていただけたのは光栄です」

「はい」

 それからしばらく話をして、帰ることになったのだけれども、校長は唐突に渡さなければいけない書類を思い出し、アオイだけを職員室まで連れていき、ユキは銅像と、小さな噴水の置かれている中庭のベンチに座って待った。

 緑色の芝生と、風に揺れる樹木の音を聞きながら、ユキはベンチに深く腰を掛けた。窓際に座っている女子生徒が、ユキのことをちらちらと見ていたりする。そんな視線もユキは気にならなかった。

 冷たい風に揺られながら、ベンチに座っていると唐突に、誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。校庭の方から一人こちらへ走ってくる。

 そして彼女はユキが座るベンチの前で立ち止まった。

「あれ、こんなところで何してんの?その服装じゃ、海星の子じゃないね」

 顔を上げてみると、見るからにギャルっぽい子だった。金髪に染めた髪に、コンタクトの入った瞳、バサバサとした睫毛に、描かれている眉。長そでと、短パンのジャージを着ている。そして膝からは赤い血がでて、土がついている。

 ユキのことを見ると、目を丸くした。

「これから、この高校に編入します。今日は面接のようなもので」

「へえ、そうなんだ。何年生?」

 そう彼女はにっこりと笑った。今までこれほどにフレンドリーに話しかけてくれる人とは会った事が無かったユキは、少し驚きながらも「今は一年」と答えた。

「私と一緒じゃん。来年同じクラスになるかもね。ねえ、ライン教えて」

「え」

 目を丸くして、ユキは手をぎゅっと握った。

「今私スマホ持ってきてないんだよね。だから、ラインのID教えてよ。それかインスタ」

「なんで、私今貴方と会ったばかりなのに」

「だってさ、来年は同じ学年なんでしょ?友達になるのが、ちょっと早くなるだけじゃん。学校入る前に仲良くなっておけば……ええっと、何ちゃんだっけ?」

「菅原ユキ」

「ユキちゃんも、学校来るの安心でしょ。ね?」

 嬉しそうににっこりと笑う笑みが、ユキにはまぶしくて、こんなに早く友達になりえる存在が出来ると思わず、油断してしまえば涙が零れてしまうのではないかと思われた。

「電話番号でもいい?」

「良いよいいよ。春休み一緒に遊ぼうよ」

「ありがとう」

「ありがとうはこっちのセリフだって」

 バッグの中からメモ帳を取り出して、そこに電話番号を書くと、ユキは彼女に渡した。

「私の名前、関口ね。怪我したから。保健室行かないと。今日連絡するね」

 紙を受けとった関口は保健室の方へ走っていった。そんな関口にユキは自信なさげに手を振った。

「ありがとう」

 温かい言葉がユキの口からこぼれた。

 

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母親の死んだため富豪の叔父と暮らすことになりました @kotomi_25

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