第5話 二つ目の告白
「ねぇ、透君」
「なに? 佐原さん」
中々二人はこの場を去ろうとはせずに、また別の話をしだしていた。
「私、あの二人にも付き合ってほしいと思ってるんだけど。何かお手伝いできないかな」
「あっ、それ俺も思ってた。今回の事も絶対あの二人が後押ししてくれたんだろうからね」
「やっぱり、千田君もだったんだ」
「ていう事は、百瀬さんにも?」
「うん、私も相談に乗ってもらってたから」
な、なんだ? 二人は一体何の話をしてるんだ。
「俺、高校で二人に初めて会った時。てっきり付き合ってるんだと思ってた」
「私もだよ。あんなに仲良いのにね」
それは、こっちのセリフ……。って、マジで何の話をしてるんだ?
「絶対に春一の好きな人って百瀬さんだよなぁ」
「夏樹も早く千田君に告白すれば良いのに……」
「じゃあ、俺たちに何かできないか一緒に考えない? 佐原さん」
「うん、わかった」
そう言い残すと、ようやく二人は体育館裏から離れて行った。
「……」
「……」
しばらくして夏樹と共に茂みを出るが、静寂が続く。
まてまてまて。透たちが話してたのって俺たちのことだよな。
名前も出してたし、ていう事はつまり。
「あ、あのさ、な……夏樹ってさ」
「うん……」
俺は一呼吸おいてゆっくりと息を吸い込む。
「俺の事、好き……なの?」
「…………」
夏樹は一向に応えようとしない。でも、確かに佐原さんは先程、夏樹が俺の事を好いていると言っていた。あれは、聞き間違いなどでは絶対にない。
「……ずるい」
「えっ」
ぽつりと、夏樹は俺の方を見て言った。
「春一だって、私の事……好き、なんでしょ?」
「そ、それは……」
「三木君がそう言ってたじゃん」
「……」
透には直接的に俺が好きな人のことは伝えていなかった。でも、あいつは完全に俺の気持ちに気付いていたんだな。
「そうだよ」
「……っ!」
「俺は、夏樹の事が好きだよ」
俺は、自分の気持ちに素直になる事にした。
隠していた事を隠さないようにしようと思った。
「私は……違う」
だが、俺の想いは空を切った。
「……そう、か」
……思い違い。
佐原さんは、ああ言ってたけど直接夏樹から聞いたわけじゃないもんな。なのに、俺は雰囲気に流されて勝手に舞い上がって。でも。
「それでもいい」
「……え?」
「夏樹が俺の事をそんな風に思ってなくてもいい」
「ち、ちがっ」
「俺、他人の事には敏感で勝手にそう思ってた。だから勝手に夏樹も同じ気持ちならって……」
「違うの! 私が言いたいのは」
「透みたいに、俺も初めてだったんだ」
「初……めて?」
俺はもう一度深呼吸する。
「中一の頃から、ずっと好きだった。それを直接伝えられるだけで十分だよ」
俺は寂しい顔は見せずに笑って見せた。
これは嘘じゃない。伝えることさえできれば、俺は。
「違うってば!」
「ぐほっ!?」
突然、お腹の辺りに衝撃が走る。
俺は痛みを感じた場所を抑えてその場にしゃがみ込む。
「な、夏樹……。さすがに断るにしても腹パンはやめて欲しいんだけど」
不意を突かれたせいで、相当なダメージを俺は受けている。まさか物理的なダメージを負わせられるとは思ってもみなかった。
「私も同じだもん!」
俺が恐る恐る顔を上げると涙を浮かべた夏樹の顔が俺を見ていた。
「でもただ好きってわけじゃない。絶対、私の方が好き……。大好き!」
そう言って、しゃがんだままの俺を夏樹は抱きしめる。
「夏樹……?」
「私、栞が羨ましかった。あんな風に堂々と一緒に帰ろうとか好きな人を誘ってさ。だけど、それがどれだけ大変なのか、わからないあの子の事がすごいって、ずっと思ってたのに……」
「じゃあ、違うって言ったのは」
「春一が私を好きでも、私はもっと春一の事が好きってこと!」
そうして見せた夏樹の顔は今までに見た事がないくらい涙で溢れていた。
「ははっ、顔ぐちゃぐちゃだぞ」
「うっさい、誰のせいよ。……バカ」
「はいはい」
俺は、夏樹を抱きしめたままゆっくりと立ち上がる。
「でも正直、俺の方が好きだと思うぞ」
「だから、そんな事ないって……」
「……わからず屋」
「どっちが」
夏樹は胸の中で俺の背中に手を回してくれる。
「それなら、俺からもう一度ちゃんと言っていいか?」
「……うん」
俺は夏樹の両肩に手を置いて、ちゃんと彼女の顔を見る。
「夏樹の事が大好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
夏樹は涙を拭って、口を開く。
「……はい!」
そう言っていつもの笑顔を見せて、一言付け足す。
「まー、でも私の方が、好きだけどね!」
どうやら、両片想い見守り隊の隊長殿は、相当な意地っ張りだ。
そんなの昔から知ってたけどな。
俺はもう一度、強く抱きしめると夏樹はさらに強く抱きしめてくる。こうして俺と夏樹、さらには透と佐原さんは晴れて恋人同士になった。
まさか一日の間に二組もカップルができるなんてと、教室に戻ったあとに騒がれたがどこか皆納得した様子だった。
それよりも、俺は親友に、さらには自分にも念願の大好きな彼女が出来て本当に良かったと思うのだった。
恋愛相談を受けた俺たちは、互いに鈍感と天然に頭を悩されるのである 桃乃いずみ @tyatyamame
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