第4話 一つ目の告白


「今更だけどさ、俺たちってここにいて良いのかな?」


 人気のない校舎裏や体育館裏、そんな目立たないところで告白するというのは学生にとっての常套手段ではあるが、まさかその一部始終を見ることになるとは思いもしなかった。


 そんな状況に、俺たち両片想い見守り隊は昼休みに集結していたのである。


「良いに決まってるじゃん。ていうか、見張ってないと誰か来るかもしれないし」


「それはそうだけどもさ」


 物陰で俺に背後から覆い被さるように、例の二人を見つめる夏樹。


 昨日の放課後、夏樹と打ち合わせた作戦通りに俺は透を、夏樹は佐原さんを体育館裏に呼び出していた。


 予想通り、二人は顔を合わせ何やら話し込んでいる様子。

 しかし、すぐに会話がなくなり互いにもじもじとしだした。


 まぁ、二人とも早く俺か夏樹のどちらかが来ないかなとでも思っているのだろう。残念ながら、その両方とも駆けつける事はないのだが。


「んー、声が聞こえない。もう少し近づきたいよ」


「仕方ないだろ? これ以上近づいたら流石に気づかれるって」


 とはいえ、いくら見えにくい場所とはいえ、これはちと俺と夏樹の距離が近すぎる。


 俺の首筋には夏樹の柔らかな胸の膨らみが乗せられており、位置をずらそうにも身動きが取れない。


「あっ! 三木君が手を出したよ!」


「手を出した!?」


 やや後ろに視線を向けたままの俺に夏樹は言った。

 俺もすぐにそちらを見ると、確かに透が佐原さんに右手を差し出している。


 あっ、そういう手を出すね。透が暴走し出したのかと思った。


 どうやら、今まさに告白をしてそれを受けてくれるかというところのようだ。


 対する佐原さんは驚いたように小さな両手で口元を塞いでいる。


「ほら! いくよ春一!」


「ちょっ! ……ったくしょうがないなぁ」


 俺と夏樹は二人に気づかれないように、学校を囲む塀に沿った茂みを通り、確実に二人へと接近していく。


 もしこれでバレたりでもしたら後が怖い。

 夏樹は本当にそれを分かっているのだろうか。


「透君……」


 と、なんとか佐原さんの声が聞こえる場所まで来ることができた。

 見ず知らずの相手ならそこまで気にならないが、友人同士の色恋沙汰となると無関係ではいられない。

 男の立場である俺にとっても、透には成功してほしい。


 俺は、そのまま横にいる夏樹と共に聞き耳を立てる。


「……私も透君が好きです。こんな私で良ければよろしくお願いします」


『!』


 どうやら、二人の恋は無事に実ったらしい。


「ほんと! 絶対幸せにする!」


「ふふっ、それじゃあまるでプロポーズみたいだよ」


「あっ、いやそれだけ嬉しいってことだよ!」


 そんな二人の幸せそうな会話が聞こえてくる。


 良かったな、透。


 無事二人が付き合うことになったようなので、俺たちは退散するとしよう。


「さて、夏樹。俺たちも気付かないうちに……」


 小声でそう伝えようとすると、隣にいる夏樹の肩がぷるぷると震え出す。


 ま、まさか!


「やっ−−」


 俺は咄嗟に夏樹の口を背後から両手で塞ぐ。


「もぐぐっ!?」


 あ、あぶねー。気持ちは分かるけど、今絶対大喜びして二人の前に出ようとしてただろ!


「夏樹! 静かに見届けるって話だっただろ!」


「!」


 俺の必死な説得を聞くと。


 コクコク。


 と、小さく頷いてくれた。


 俺はそれを確認してからゆっくりと手を離す。


「ご、ごめんね春一。嬉しくてつい……」


「大丈夫、その気持ちは俺も同じだからさ。教室に戻ったら盛大に祝ってやろう」


「うん、そうだね」


 夏樹と顔を合わせて笑い合い、二人が立ち去るのを待つ事にする。


「あれ?」


「どうした夏樹?」


「二人とも、なんかまだ話してるみたい」


「えっ?」


 俺たちはもう一度耳を澄ます。

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