GA/借金まみれで夢も希望もなかった僕が××へ行く為の物語
空場いるか
第一幕 ボーイ↓ミーツ↑ガール
ボーイ↓ミーツ↑ガール
西暦2200。
悪魔の大王や、核戦争で世界が壊滅の危機…… なんて事もなく、世界は有数のリーダーの下に順当に進化を続けてきた。
その進化の代表例が、今まさに僕が歩いているカナダ最大の都市であるアイオライトだろう。機械化された道路に、ホログラフィック標識。
昔からの高層ビルに関しては、建替えは行なっていないので手付かずでそのままではあるが、新建築のビルに関しては、外気温や日差しに応じて見た目や温度が変化する感知式変温液晶ガラスが採用されている。
それらは世界的に見ても、未だ普及していないトップクラスの技術だ。
これだけでも僕の様な田舎者は目を回すほどのシロモノなのに、驚くべき事に技術開発の本場であるドイツでは、更に都市が近未来化しているとの事だ。
「っと、そんな事を考えてる場合じゃなかった」
そう呟きメガネ越しに腕時計を見ると、時間は午前四時。
泣く子も眠る時間だ。
辺りを見渡しても人っ子一人居ない。
そんな流行の街並みに似合わない寂れた夜の街を突っ切り、僕は一週間前から働き始めたバイト先へと歩く。
バイト先までは、ここから歩いて一時間程度かかるだろう。
何故そんなに歩くのかというと、家の無い僕にとって、そのバイト先近辺の繁華街は仮眠を取るにも物騒な場所である為だ。
具体的にいうならば、命の危険がある。
命なんて物に執着がある程に僕は何かを持ち得ている訳では無いが、それでも痛いのは嫌だ。
死ぬなら、楽に死にたい。
そんなちっぽけな理由で、ただ漠然と意味もなく生きている僕。
後ろから追いかけてくる形を成し得ない不安から逃げる様に、いつもより早歩きでバイト先へと向かう途中。
気を紛らわす為に僕は、今日はバイトの日銭で一体何を食べようかなどと考えていると、月の光に照らされて…… ソレは降ってきた。
前方十メートル先。
長髪の女性が、空から落ちてくる。
右手にはビルがあり、考えるまでもなく、それは投身自殺といわれる物だ。
もしくは可能性は低いが、ビルの屋上やベランダから足を滑らせたか。
上空から降ってくるその姿を見て、僕は咄嗟に思ってしまった。
助けられる。
しかし、助ける事にもリスクが伴う。巻き込まれて二人とも死ぬ可能性もある。
ただ、運が良ければ僕の身一つの犠牲で女性を救えるかもしれない。
だから…… リスクを考えるまでもなく、僕は駆け出した。
当然だ。
いつ何処で死んだって構わない僕と、もしかしたら死にたい女性。
助かるべきは明白だろう。
痛いのは嫌だという、しようもない理由を上回るだけの出来事が、ただ起きただけだ。
動体視力は良い方ではあるが、上手くキャッチ出来るとは限らない。
僕は駆け出した勢いのままに、自らの身体と背負った鞄をクッションにする様に、落ちてくる女性と地面の間に飛び込んだ。
そして地面にうつ伏せになる僕。
これから来るであろう衝撃に、地面に擦り付けた身体が強張る。
…………しかし、いつまで経っても衝撃は訪れない。
不思議に思い、うつ伏せになった僕は身体を起こし、空を見上げる。
すると、顔を上げた僕の目と鼻の先に、先程の女性の顔があった。
……逆さまで、中空に浮いたまま静止した、その女性の顔がだ。
人間離れした美貌にサファイアの様な青い瞳。
そして、薄い桃色がかった長い髪。
その姿を見て、僕はただただ美しいと思った。
だからだろうか?
あり得ない状況、あり得ない現象。全てをほっぽり出して、つい口からでた言葉は、
「綺麗だ」
そんな稚拙な言葉であった。
僕のその言葉を聞いた彼女は、満開の笑顔を咲かせ酷く楽しそうに、こう話した。
「見つけました!私の、王子様!」
眼鏡がずれ落ちた僕の瞳に映る彼女は、今まで見た事ない程に透き通った藍色で、どこにも行けない、何色にもなれない透明な僕でも…… 何かが始められる、そんな予感がしたんだ。
GA/借金まみれで夢も希望もなかった僕が××へ行く為の物語 空場いるか @kjirk
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