動由と意思の石

生字引智人

第1話

全自動人間、動由(どうゆう)は、静かな部屋の中で瞑想にふけっていた。


彼の目の前には、ただの石が一つ。


特別な形や模様があるでもない、その辺にある石が一つ。


しかし、動由はその石に何時間も見入っていた。


「意思を持たないものにこそ、強い意思を感じる。」動由は呟いた。


彼は自身が全自動人間であることを深く自覚していた。


命令とプログラミングに従い、動くことが彼の宿命。


だが、この石は異なる。動かない。命じられない。ただ存在するだけ。


「私は動くために作られた。しかし、この石はただそこにあるだけで、何かを伝えている。」


動由は自らの存在と石を比較し始めた。


彼は常に動いているが、その中に真の意味は見出せない。


一方、この無生物は、その静寂の中に深い意味を秘めているかのように感じられた。


「動かないこと。それは一種の抵抗かもしれない。静かなる抵抗。」


動由は、全自動人間たちが常に何かを成し遂げようと走り続ける姿を思い浮かべた。


彼らは常に忙しく、常に何かを追い求めている。


しかし、この石は異なる。それはただ静かに、時間とともに存在し続ける。


「私は全自動人間。命じられた通りに動く。しかし、この石はただ静かに存在する。それが、真の自由かもしれない。」


夜が更けていく中、動由は深い思索にふける。


彼には命令に従う以外の選択肢がないが、この石はただ静かに、自らの存在を示し続ける。


「意思を持たない石にこそ強い意思を感じる。」動由は再び呟いた。


彼はその石から多くを学んだ。動かないことの美しさ。静寂の中の強さ。


外の世界は変わらずに忙しく動いているが、彼は今、この石とともに、静かに時を過ごしていた。


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動由と意思の石 生字引智人 @toneo55

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