売国奴とののしられ、軍から追放されたこの俺が、なんとこの度、国王付の剣聖(笑)の地位を賜るようでございます(爆笑)
マイルド・ロッコス
第1話 うまい話にゃ裏がある(はず)
売国奴、反逆者、非国民。
どれも王国に仇なすモノを指す言葉だが、実際にそれらを自らの手で処刑したり、王国騎士団に通報したことがあるかというと多くの答えは『ノー』であろう。
だがしかし、通報まではいかないにしても他人の心無い行動を見て『非国民か?』と密かに思ってしまったり、愛想笑いをばらまきつつ、人目のない場所で『あいつは売国奴だ』なんて陰口を叩いたりする。そんな経験もないのかと聞かれると、おそらく全員『実はある』と答えるに違いない。
またこれは、積極的な通報や地域市民による処刑が推奨される前。
十一年前の革命以前でも同じ結果である。
確かに革命以前にはこの『売国奴』という言葉は存在しなかった。
しかし、似たような意味の『怠け者』『嘘つき』『裏切り者』といった表現は既に存在していたし、その言葉に置き換えてしまえば、昔の人間だったとしても、先程の質問に同様の『実はある』と答えを返すに違いない。
事実、昔も今もセールスの良い週刊誌や新聞は、罪なき人間を『売国奴』やら『嘘つき』と脅威認定する内容だし、よく市民たちが読んでいる『楽なお金の稼ぎ方』なんて本は、言ってしまえば『国を出し抜き自分だけ成功する方法』を言い換えただけのものだったりする。
極論、このアストン連邦王国には、『売国奴』予備群が潜んでいるのである。
閑話休題。
さて、そんな『売国奴問題』は、昔も今も市民だけでなく王様の心をもつかんでやまない一大案件であり続け、頭の固い役人どもも冤罪を防ぎつつどう的確に『売国奴』を裁くのか、なんてことに取り組んでたりする。
しかし、悲しいことに、その冤罪当事者。革命直後の裁判で半ば無理やり『売国奴』認定を受け、そのまま処罰された俺自身としては、もはや至極どうでもいいことだったりした。
確かに、まあ理解はできる。
『売国奴』認定直後は俺も驚いたし、命だけはどうにかとられなかったものの、左目は潰され、多額の賠償金に日々の暮らしに困窮し、おまけにアストン王国騎士団からも永久除籍の処分をくらった。
その後は、大人しく再就職しようとしたが、市民・役人からは『売国奴』というだけで唾を吐きつけられ、おまけに、友人、知人、親戚からは一方的に絶縁宣告。
最後に、騎士だった過去の証であった勲章、剣、鎧を二束三文で質に入れ、どうにか申し込んだ食糧配給にも、明らかに毒が混ぜられており、とことん飢えに苦しんだ。
しかしまあ、おかげで本物の『売国奴』になってやろうと吹っ切れたし、その後、もぐりこんだ不法略奪集団ウラヌス傭兵団(旧ロウエン傭兵団)でも仲間ができ、今やこうして王国相手に不法占拠している土地をめぐって、ドンパチ殺し合いに興じれている。
何が言いたいかというと、あの時は冤罪だったが、いまや俺は立派な犯罪者。
傭兵団の棟梁にまで上り詰めてしまったし、部下も一万人を超える大所帯。
おまけに、騎士団を十年も撃退し続け、王国領東地域一帯を違法占拠し、その生産物を他国へ売りさばいているとあれば、もうこれは歴とした『売国奴』である。
無論、王国からも騎士団からも恨まれこそすれ、情けをかけられる対象ではない。
だからこそ、
「今何と?」
「聞き逃されましたか?そこまで長い言い回しではなかったと思うのですが...ではもう一度。国王陛下から賜りし、季節のご挨拶から...。えー、『前略、ロードハイト・ウラヌス殿。花香る穏やかな風が――」
「……いや、結論から言うと?」
「...私、アストン王国騎士団騎士団長及びガイゼル国王陛下の名において、貴殿..ウラヌス殿はアストン王国軍神貴族『剣聖』の地位へ推薦されたのです。」
この王国騎士団騎士団長様からの爵位の授与は、何か絶対裏があるに決まっているのだった。
売国奴とののしられ、軍から追放されたこの俺が、なんとこの度、国王付の剣聖(笑)の地位を賜るようでございます(爆笑) マイルド・ロッコス @Shujiiiin
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