第28話 開け、扉!!

「えっ?! 何で2人とも深刻な顔をしてるの~?」


 家の扉を少しだけ開けあたりを目視で窺う。いつもと変わらない裏通りへと続く細い道が今日も姿を覗かせた。


 家の前にあるこの細道は、タールマイナに住む人間でもあまり活用されない、比較的知られていない道である。


 この道を上手く利用すれば、タールマイナ内のどのエリアへだって人との接触を極力減らせつつ移動することができる。


「あんたねぇ、そんな原始的な確認方法じゃ逆に『ライザはここだ、見つけてくれ』とお願いしているようなモノよ?」


「仕方ないだろ、俺はただの鍛冶屋で隠密スキルなんて必要以上にあげてな「私がやるわ。あんたは下がっていなさい」」


 お忍びが下手な俺をヒュノの元へ下がらせたツクモ。文句の1つでも言ってやろうかとも思ったが、詠唱に集中しているようなので見守る事にした。


「……いるわ、独りだけ。ここから25m程離れた所に。背丈の高い窓から通りを隈無く注視している怪しい影が」

「どうして室内にいるのに、離れた相手を確認できる?」


 出発前にどうしても確認せずにはいられない心の虫が暴れているので、本能に従いツクモに聞いてみた。


「空間把握。上級冒険者ともなると、自分より格上のモンスターばかりと相手にしなくちゃならない。 戦闘機会は出来るだけ避けるのは基本中の基本よ? それよりあんたの作ったソレ……本当に大丈夫なの?」

「あぁ……爆発力だけは保証するぞ」


「さぁ、今日も張り切ってイコーぉお!!」


 元気良さとは時に他人の命を縮める。いや、むしろ他人の命を吸い取るといつ表現の方が正しいのかもしれない。


 ヒュノは勢いよく扉をあけてくれたお陰で、ツクモがかなりの魔力を消費して発動してくれた、『空間把握』『魔力不干渉』『認識阻害率向上』の効果は一瞬にして吹き飛んでしまった。


 おまけに、デスファングが散歩と勘違いして街中へと駆け出してしまう始末。音を立てず、細心の注意を払いながら扉をゆっくりと開けた俺の気持ちも考えて欲しかった。


 ヒュノの身を案じ俺とツクモが建てた事前策を台無しにした、ドアをバーンと勢いで開ける行為を俺は『ドアバン』と名付ける事にした。


「ヒュノ……これから何をするかわかっているよな?」


 ツクモに関しては、開いた口が塞がらない状況である。


「うん!『はぐれドルミーラ教徒を捜し出せ』だよね?! どこにいるんだろうね、わくわくするね~」


 いやいや、ヒュノさん。これから新しいエリアへ旅に出かけるようなテンションで言われても困ります。それに、はぐれドルミーラ教徒とかレア感を出してはしゃぐの止めてください。


「なぁ、ヒュノ。危機感を感じないのだが本当に大丈夫か?」

「大丈夫、大丈~夫ぅ! 遭遇してもしも何かあったら眠らせちゃうんでしょ? トクイブンヤだよ任せて」


 嬉しそうに親指を立てて俺に合図を送るヒュノ。自信たっぷりの笑顔とちょこっと覗かせている小さな舌が可愛いくらいに似合っていてムカつく。寝ているときの感情が伝わるのであれば、今日はおもいっきりヒュノが困るような想いを抱きながら寝てやるから、覚悟してろよ?


「ねぇ、あの子本当にドルミーラ教の生き残りなの? どう見てもただの馬鹿にしか見えないけど」

「言いたい事は良くわかるぞツクモ」


「ドルミーラ教って人の心を奪い、操ることができる脅威……だから襲われたのよね?」「その通りだ」


「詐欺をしている奴等がが本当のドルミーラ教徒で、この子こそ偽者なんじゃない? 100人に聞いたら99人がそう答えそうよ」


 相変わらずマトモなことしか言わないツクモさん。的確過ぎて言い返す言葉がない。


 ドルミーラ教徒は悪。そう教え込まれていた俺達にとって、ドルミーラ教とは畏怖する対象であった。


 ドルミーラ教の眠りの力はモンスターや人間を操るだけでなく、神獣をも操れる力をもった人間が現れたという噂まで流れていた。


 俺の親父が生きていた頃は、騎士兵団の団長ということもあり、情報には長けていた。


 他国がドルミーラ教のある村を襲うかもしれないという情報を情報屋ファゼックから得ていた親父は「そんな噂話レベルで戦争を起こしていい筈がない」と憤っていた。


 しかし、タールマイナ国からすれば、他国がドルミーラ教の村を襲うことには賛成であり、国王からは『静観せよ』という命令が親父に直接下っていたようだ。


「自分の眼で直接確かめたいだけなのに何が駄目なのだ!」と毎晩のように晩酌時には家で愚痴を溢していた親父。


 ドルミーラ教の存在が国害に該当するかどうか決定しない段階で、騎士兵団側には行動に制限を課せられていた。


 騎士兵団という檻に辟易としていた親父は、騎士兵団団長でありながら、独自に調査を行うギルドを立ち上げ、ドルミーラ教のある村へと向かった。


 当時、タールマイナ内でも最高クラスのメンバーを従えて戦地へと向かったのだが、親父を除いた全員が現地で死亡が確認された。


 騎士兵団団長という身分が有りながら、秘密裏に直接ギルドを編成し、狩猟クエストだと偽りドルミーラ教のある村へ無断で行き、あまつさえ国内優秀の戦力すら喪ってしまった。


 これまで何度も国の危機を救い、騎士兵団団長という重役にまで成り上がった親父を称賛する声は多かった。


 そんな親父に対し国内の感情は爆発し、国賊や嘘つき野郎と罵られ、不名誉な名称だけが残った。


「ほ? どうしたのライくん」


 危機感の無いヒュノの表情が全ての不安を洗い流す。性格には、不安を感じている自分が馬鹿らしいと思ってしまう心配性なのは親父譲りなのだろうか。


「俺はどうもしないが、ツクモには感謝の言葉くらいあげとけよ? ヒュノの事心配して魔法までかけてくれていたんだぞ」

「そ、そうなの?! ごめんね、つくもん~!!」


「あんた本当に五月蝿いわよ、見つかったらどうするのよ?! ちょっと、抱きつかないでくれる?」

「大丈夫~迷子になっても、ライくんかつくもんが見つけてくれるから」


 ヒュノは自分が迷子にならないような補助魔法をかけてくれたのだと勘違いしているようであった。


「見つけてほしいのなら俺やツクモから離れるなよ?」

「あぁ、ちょっと待って2人とも~」


 出発早々、ヒュノの行動で拍子抜けを食らった俺達であったが、はぐれドルミーラ教徒である偽者を見つけ出す為、俺達3人は騒ぎながら出発した。

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