第27話 自動的悪役
「……ってか、あんた達は朝から何してるのよ。私お邪魔だったかしら?」
ツクモの冷たい視線が俺の身体をすり抜け心に直接響いてきた。軽蔑の眼差しはこれまで何度も経験してきたが、本日が最高級だ。
「違う、話せばわかる。疚しい事はしていない」
そう。疚しい事なんてない。俺はこう見えてクリーンな男だ。ヒュノという女性がいながら、俺は一回も彼女の寝込みを襲ったことはない。
たとえ、寝ている最中に後ろから抱きつかれた際に柔らかい何かが俺の背中にあたろうが、ヒュノがしゃがんだ際にスカートから下着が見えていたとしても「今日はなんて日だ、神様」と日々の暮らしに感謝を捧げる程度である。
「何が『違う』のよ? 一部始終見ていたけど、あんたが着ていた服をその娘に脱がせて、身体を見るように指示していたようにしか思えないのだけれど?」
「いや、合っている。合っているのだが、違うのだ」
「あんたの身体が見た目の割には引き締まっているのはわかるけど、連れ込んだ女の子に見るように強制するだなんてサイテーよ。今すぐデスファングの餌になった方がタールマイナの為よ。今すぐ挽き肉にされなさい」
いやいやいやいや、ツクモさん。
心にもないことを簡単に口走ってはいけませんよ。デスファングのモフモフが俺を見ながら涎を垂れているではありませんか。
主を食べるペットが何処にいるというのだろうか。
……いや、正式には、モフモフは俺のペットではない。俺はテイムをした記憶もなければ、主従関係を交わした事もない。
怪我をしていた所を助けたら勝手に付いてきただけであり、正しい関係としてはまだ【モンスター】と【人間】だ。
つまり、ツクモの言った【捕食者】と【餌】の関係も強ち間違いではないのである。
思い返せば、デスファングは事ある毎に俺を甘噛みするシーンが幾度もあった。その度に高価なハイポーションを一気飲みしては死線をにゅるりと躱していたような気がする。
何故ヒュノに服を脱がせてもらい、身体を見るようにお願いしていたのかについて、俺はハイポーションを咥えながら説明した。
「つまり、あんたは粗悪品がないか調べていた……て事かしら?」
「あぁ、その通りだ」
正解。直訳すると、夢の中でヒュノに「商品を作れ」と命じられた俺は、大量にインナーシャツを製造した。
体力が自動回復するオートヒール効果のある大変珍しい品が出来た一方で、粗悪品もできてしまったた。その為、検品していたところを運悪くツクモに見られたという事だ。
「オートヒール効果の商品だなんてにわかに信じられないわ」
ツクモが不思議がるのも無理はない。体力を回復させるには概ね3つにわかれる。
①魔法士に回復魔法をかけてもらう
②ポーション等の回復アイテムを使用する
③休息する
以上だ。オートヒールとは一定時間毎に回復する効果をさす。オートヒールは回復魔法でもかなりの高等魔法であり、詠唱できる者はこの世界でも限られた数に留まる。
貴重な効果であるオートヒールを得ることができる服を発明したとなると世界初の偉業であるのはまず間違いない。
……が、手放しで喜べる状況でもなかった。ツクモに話した通り『粗悪品』も同時に製造してしまったのである。
「ねぇ、粗悪品ってどんな感じなの?」「……まぁ、粗悪品って言っても大した事ないさ。ちょっと呪われてて、自分独りでは脱げなくなるくらいだ。あと、自動的に回復する『オートヒール効果』じゃなくて、ずっと悪役っぽくなる『オートヒール効果』が付与されるくらいさ、命に問題はないさ」
「そう、問題ないさ~」
「そうじゃあ門だ……って、問題ないわけないでしょ!! 呪いのアイテムなんか製造しないでくれる?!
「いやいや待て待て!! 家の中で何詠唱しようとしてんだよ! こんな住宅が密集しているエリアで炎系魔法なんかぶっ放したらタールマイナは火の海だぞ?!」
「そ、そうね……ちょっと取り乱したわ」
真顔で詠唱し始めるとか、ツクモを怒らせるとデスファング以上に狂暴であることがわかった。
「駄目だよ、つくもん~。折角ライくんが作ってくれたんだから~」
「あんたね、少しこの男を甘やかし過ぎよ? 何処の世界に
「でも、自動回復の方は凄い大発明だよ?! もっと褒めてあげないと」
「
「んえ~でも~」
「デモもデーモンも無いわよ。その粗悪品とそうではない品との見分け方なんてあるの? 『装備しないとわかりません』なんて品、あんた達ならお金払ってでも欲しいかしら?」
ツクモさんの指摘が的確過ぎてぐうの音もでない俺達。結局、俺とヒュノの2人で渋々インナーシャツを箱詰めにし、片付けた。
「残念~ライくんの商品凄いんだけどな~」「それで、ツクモは今日は何しに来たんだ。俺達の商売を手伝いに来てくれたようにはとても見えないが」
いつになく真剣な顔をして仁王立ちしているツクモは俺達にこう言った。
「あんた達の知らない所で、ドルミーラ教を語った詐欺が横行しているわよ」と。
俺達は既にファゼックからこっそりと聞かされていたが、とうとう商業に携わっているツクモの耳にもその情報が出回っていることに危機感を感じた。
「ドルミーラ教徒……」
独特の天真爛漫さを誇るヒュノの表情にも、ツクモの話を聞くなり今は陰りをみせて……
「私の他にも生きていた人がいたんだぁ~!! 急いで支度しなくちゃ。今すぐ行こうっ、そうしよ~!!」
陰りをみせたることもなく、握手を求められた俺とツクモは『ヒュノをどうしたら止められるだろうか』と眼を合わせ悩んでしまった。
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