第13話 物々交換
「ほら、ライくん止まっているよ? ちゃんと動かしてよ?」
ヒュノがここまで欲しがり屋だとは知らなかった。連続して動くのは辛く、少しだけ身体を休めようと止まっただけなのに、俺に動けと強要する。
「わかってる。出すからな?」
「うん、早く出して……きたぁ!」
完成するのを待ち焦がれていたヒュノの前に、出来立てほやほやのアームリングが沢山並ぶ。ヒュノはアームリング、別名『ふにゃん』に対し、色塗りをして楽しんでいた。
別に色なんてつけなくても品としては完成しているのだが、「色がすこぶる可愛くない」なんて難癖つけるので、色塗り工程を増やし、彼女に任せることにした。
生活苦、資金難の俺達にとって、資金集めは重要だ。
先日、ヒュノと一緒に『物造り、物販売』で資金を獲ることを決めたばかりであったが、俺達は物を造る為の素材集めに難儀した。
生産職の俺に、宗教職のヒュノ。お互いモンスターを討伐できるだけの火力なんて持ち合わせておらず、結果として採石だけで造れる一番お手頃な装飾品、アームリングを生産することに落ち着いたのである。
ヒュノが頑張っていろいろな色を塗っては楽しんでいるようなので、俺としてもありがたい。
「綺麗に塗れたぁ!! 見て見て、モフモフ~」
「ガルル」
デスファングのモフモフも、どうやらこの家に慣れた様子で安心した。夜行性の為、夜はこっそり街を抜け出しているようなのだが、朝方には仕留めた動物を咥えたまま帰ってくる。
モフモフが仕留め来るモンスターを食べることで俺達はお腹を満たしている。2メートルくらいのミミズ型モンスターを仕留めてきたときは流石に俺もヒュノも食べるのを全力で拒否したが。
「ライくんも見てよ! 可愛さが溢れてて眠たくなるんだから~」
「いやいや、『可愛い』からって『眠たさ』と同じにはならないだろ? 眠たいのはヒュノだけだろ?」
「んぇ~、可愛くできたんだと思うんだけどなぁ~」
俺のコメントに納得してないご様子で、少し残念がりながらも完成した『ふにゃん』を大事そうに綺麗に並べていた。
朝から商品の準備をした俺達は、不定期に開催されるマーケットで売るために足早に家を後にした。道中、出来る限りの人と逢わないように裏道を駆使して移動し、街の西エリアにある憩いエリアまでやってきた。
西エリアは商業が盛んなエリアからは少し離れており、定住エリアとして人気が高く、若者から老夫婦まで幅広い年齢層が暮らしている。
また、武器屋や防具屋といった店も少なく、生活に必要な品を取り扱う店の方が多いエリアとしても知られている。そんな、暮らしに特化した西エリアにある憩いの広場が、本日俺達の目指す地点である。
「うわぁ~見てみて! お店がいっぱい」
「へぇ~。思っていたよりも賑わっているな」
俺達の目の前には簡易型のお店がたくさん並んでいた。大きな布を地面に敷き、その上に商品を並べただけの簡易的なお店。どの店にも屋根はなく、どの店ものんびり気ままに販売している様子だ。
この西エリアの憩いの広場は、近くに住んでいる人が散歩しやすいように整備された空間であり、だだっ広い芝だけあるのが特徴だ。
そして、今日開催されている不定期市は主催者が存在しておらず、公の催し物ではない。その為、商工会側も把握しきれない部分もあり、商工会側からの御墨付き、つまり販売許可がなくても売っている店が殆んどである。
唯一『安価で売ること』という暗黙のルールだけが存在するらしい。商工会側から睨まれないようにする目的もあるだろうが、この空間に拡がる、ゆる~~~~い雰囲気を壊さないようにする為でもあるのだろう。それさえ護れば、誰からも咎められる事なく自由に販売、購入していいとのこと。
「本当にこの広場でお店して良いの?!」
「あぁ、大丈夫だ」
こんな広場で不定期市が開催されていたことは、同じ街に住む俺でさえ知らなかった。ファゼックからこっそり教えてもらった情報であり、開催された日も見事に当たっていた。
俺達は、陽当たりの良い場所を1区画確保をし、早速準備してはアームリング『ふにゃん』を並べた。
「こうやって見ると、色があると商品ぽくなるな」
「でしょ?! 全部お気に入りなんだから。誰にも売りたくないかも」
おいおい。それじゃあ何しに西エリアまで来たのかわからない。街の外には出てないとはいえ、西エリアまでの移動で徒歩20分くらいは要したぞ?
それに今日は売り上げて、少しでもお金を獲得しておかないと、今夜の食材が巨大ミミズになっても知らないからな。
「こんにちは。貴方達は何を売っているの?」
私達の隣に商品を並べていた女性が俺達に声をかけてきた。
「勿論、『ふにゃん』一点張りですっ!」
えっへんと威張ったようなポーズでどや顔をするヒュノさん。どこからそんな自信が溢れ出るのかご教授願いたい。
「えっ……と。ふにゃんって?」
呆気に取られたご様子のお隣さん。なんの変哲もないアームリングに色を塗っただけの商品であること伝えると理解してくれたようで笑われた。
「素敵……もしかして2人で創られたの?」
「製造は俺が、こちらの自信家が色付け担当です」
「2人で?! 素敵っ!!ねぇ、良かったら物々交換してくださらない?!」
隣の店のオーナーさんから意外な提案を申し込まれた。聞くところによれば、この不定期市では販売者同士の物々交換も流行っているらしく、それが楽しみで参加している人もいるとのこと。
「何それ、愉しそう!!」
「ふふふ……お好きな物どうぞ~」
「えっ! 良いの?!」
髪飾りにスプーン、それに皿など魅力的な物ばかり並んでいた。彼女の扱っているのは全て木製であり、どれも手に馴染む無感であった。
恐る恐る値札を見ると、俺達が販売しているアームリングなんて比べ物にならなかった。
「あの……良いんですか?俺等はこれしか持ってきてない……」
「良いですよ、お気になさらないで下さい」
な、なんて良い人なんだ!! 物腰も柔らかく、穏やかな口調で微笑む彼女からはまるで女神のようだ。
「う~ん、じゃあそれ下さい!」
ヒュノが満面の笑みと共に指差したのは、彼女の膝元に置かれたサンドイッチ達。値札は貼られておらず、どうみても彼女が自分で食べるために用意した物であることは俺でも気づいた。
「ヒュノ。あれはお姉さんの昼飯だ。売り物じゃない、諦めろ。そして恥ずかしい」
「んぇ~そうなの?! あれ一番心が籠っているって感じたんだけどな~」
悔しがるヒュノを見て、お姉さんはまた笑いだした。
「ふふふ……良いですよ」
「ちょっと、これ貴女が食べる為に用意した物じゃ……」
「良いんです。私はいつでも食べられますので。それに、ヒュノさんはお腹が空いているようですし」
嬉しそうにサンドイッチを天へと掲げて喜ぶヒュノ。
「あぁ、眠りの神よ。凄く、すご~く美味しそうなサンドイッチと出逢えた事に涙が止まりません。感謝の念も絶えません」
確かに滴ってはいるが、人々はそれを涙とは言わない。口から出ているそれは、残念ながら涎という液体だ。
「じゃあ、貴女にはこの『ふにゃん』あげる!! 一番綺麗に塗れたもん」
ヒュノはそう言い、オレンジ色に着色されたアームリングを手に取ると、無許可で彼女の手首へと装着していた。
「えっ……あの……」
「貴女にはこれが似合うっ絶対!」
「おいおい、それくらい選ばせてあげ……」
「いぇ、良いんです……本当にこれいただいて良いのですか?」
不思議そうに俺やヒュノの顔を何度も見る女性。
「あぁ、嫌じゃなかったら、それもらってあげてくれ。その……ご馳走さまです」
「いぇ、こちらこそありがとうございます」
ヒュノと交換した女性は凄く喜んでくれた。
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