第11話 忘れられた遺構
「こりゃあ、すごいな」
洞窟の中に踏み込んだ俺は、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
確かに入り口は洞窟に見えたが、内部に踏み込んでみるとそれは洞窟というよりも、それを利用した何かしらの施設だった。
サランのように知識がない俺は、なんとなく古い程度にしかわからないが、確かにこれは人の手によるものだ。
かなり広いが、
普通、こういう
「問題なさそうだ」
モルタルと煉瓦風の内部構造は森に在る
そう判断した俺は、入り口に引き返して外で待つ仲間たちに声をかける。
「おう、先行警戒してきたぞ。入っても大丈夫そうだ」
「では、参りましょう。ユルグ、あなたの見立ては?」
「
もともと洞窟や遺跡などが
そして──ある日、突然に出現するものだ。
『銀の正十三角形』が封じられた
となると、オリジナルはこちらの洞窟になるのかもしれない。
まぁ、そんな事は言わなくともサランがすでに予測しているだろうが。
「内部はかなり広いぞ。人が住めそうなくらいだ」
歩きながらそう説明する俺に、フィミアが首をかしげる。
「一体、何のための施設なのでしょうか?」
「わかんねぇな。強いて言えば、何かの工房に見えなくもないが」
「こんな不便な場所にですか?」
そう言われてしまうと、確かに俺の見立ては荒唐無稽に思えてしまう。
食糧事情も悪そうなこの場所に人が住むのは、かなり難しそうだ。
「……うーん、この感じは結界があるよね? サラン」
「ええ、間違いないですね。真言魔法方式のようですが、いまいち発動箇所がわかりませんんね」
〈
一応、〈
「松明を置くか?」
「いいえ、魔法の灯りを使います。ロロさん、お願いできますか?」
自らもふわふわとした灯りを放つ光球を杖で飛ばしながら、ロロに指示をするサラン。
それを受けて、幼馴染が指を振ってサランのものよりも小さな光球をばら撒くようにして放つ。
おかげで、一気に部屋が明るくなった。
「これでいい?」
「あなたの魔法の使い方は、時々本職の私の自信を大きく削りますね」
小さなため息を吐くサランの肩を軽く叩く。
俺だって冒険者になってから何度も嫉妬したもんだ。
こいつの、才能にはな。
「ボクのは自己流だから、いろいろとヘンな使い方ができるだけだよ。便利に使ってるだけでサランみたいな大魔術は使えないし」
「そこまで真似されては立つ瀬がありませんよ。それにしてもなるほど……ここは、いわば入り口ホールのようですね」
鮮明になった内部は、半球状の大きな空間だった。
壁にはいくつかの通用口らしい穴がいくつかあり、床には経年劣化でかすれた何かしらの模様の残骸。
「これは興味深い。ユルグが工房といった理由もわかります」
「ああ、鍛冶ギルドにちょっと似てたんでな」
サランに頷いて、俺は通路が見える壁の穴を注意深く観察する。
興味深くはあるが、奥からじわりとした圧迫感があった。
サランは気が付いていない。様子からして、おそらくロロも。
「ユルグ……」
「お前にわかるってことは、やっぱ
俺の隣で小さく不安げにするフィミア。
その背にそっと触れて、俺は小さく息を吐いて気合を入れる。
「どうしたの? 二人とも」
「わかんねぇ。だけど、この先に在るのは聖女か、勇者に関する……つまり〝淘汰〟関連の何かがあると思う」
俺の言葉に、ロロが黙って目つきを鋭くさせる。
「フィミアさん。可能性としては?」
「旧い地下聖堂、あるいは未発見の聖遺物保管所。悪いパターンですと、伝承にない〝淘汰〟の封印施設……といったところでしょうか」
「どれにせよ、調査は必要ですね」
どこか嬉しそうな様子でサランが頷く。
真面目なふりして、こいつも結局は冒険者なのだ。
未踏の地を目指し、新発見を喜び、成果を求める。
普段はすました顔をしているくせに、こうなると止まるまい。
……ま、俺も同じだが。
「奥を確認しよう。
「念のために強化魔法はかけておくね」
ロロが指を振って強化魔法を施していく。
ゴーレムなどは、動き出すまで気配が全くないからな。
「通路は四つ。さぁ、どれから行く?」
「こちらにしましょう」
フィミアが向かって右端の通路を指さす。
圧迫感が最も大きい通路だ。
「いきなり本命か?」
「何があるのか確かめないと落ち着きませんし」
そう苦笑するフィミアに頷いて、仲間達に目配せする。
ロロもサランも特に異論はなさそうだ。
「それじゃあ、行こう。先頭は俺が行く。罠の類いはないとは思うが……ロロ、何かの場合はフォローを頼む」
「うん。了解」
「サランは、何かわかったことがあれば教えてくれ」
「ええ。私よりフィミアさんの方が詳しそうですが」
サランがフィミアをちらりと見る。
「あいにく、伝承にも記述がない場所です。何かわかればいいのですが……」
「行ってみりゃわかるさ」
フィミアが俺に頷いて、前を向く。
「よし。『メルシア』、進行するぞ」
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