第32話 再びの邂逅
気配がわかる。
フィミアが言っていた、圧迫感がより鮮明に感じられる。
それは拒否感じみた何かでもあり、殺気に似た意志でもあった。
「ユルグさん!?」
「ギルマス?」
防壁を渡ったところで、二人の冒険者が俺を振り返った。
以前に見たことがある顔だ。
「ノートンとコルトスか」
「っす。カティさんの指示で、進入路に入ってくる
「奥にヤベーのがいるって話ですけど、オレらじゃ近づけなくって」
カティはしっかりと仕事をしていた。
文字通り、俺の代わりに身体を張って、マルハスを守っていたのだ。
ならば、俺の答えは決まっている。
「……俺に任せとけ」
二人にそれだけを告げて、森に踏み込んでいく。
殺気をたっぷりに放ちながら、挑発するように。
ギルド建物を破壊したヤツは、知恵のある
で、あれば……俺の危険性は、十分に認識できるはずだ。
その証拠に、森の奥から感じる不快感は俺に向けられている。
間違いない。『ヤツ』は俺を認識している。
「さっさと出てこいよ……! 叩っ殺してやる」
気配に向かって、吐き捨てる。
聞こえているかどうかは関係ない。ただの殺害宣言だ。
ここまでやらかしてくれた以上、もう命の取り合い以外にやるべきことはない。
襲い掛かる
怒りに身を焦がしつつも、俺は少しばかり冷静だった。
カティが最期までいい女だったから、せめて格好を付けたかったのかもしれない。
しばらく森を進んだところで、周囲がやけに静かになったのを感じた。
鳥のさえずりも、虫の這いずる音も、木々のざわめきすらも消えて……ただ、気味の悪い存在感だけが、感じられる。
〝
なるほど、これが〝淘汰〟の──俺たちを滅ぼさんとするモノの気配か。
「……ッ!」
木々の奥、その陰から何かがこちらに向かって歩いてくる。
足音、だ。四足歩行……かなりデカい。
隠れることもせず
「テメェは……!?」
俺の前にその姿を晒したその異様に、さすがの俺も少しばかりたじろぐ。
あまりに奇怪で、おぞましく……あり得ないことだった。
「ようやく来てくれたんだね、ユルグ」
「アルバート……ッ!」
馬に似た長い首を持ったおぞましい姿の獣。
その頭部に据えられたかつての仲間の頭が、人間の言葉を話している。
首から下は獅子。後ろ足は猪。枝分かれした蛇頭を持つ尾。
背には蜥蜴のような鋭い背ビレがずらりと並び、それは尾に近づくにつれて角のような突起になっている。
こいつは、なんだ?
〝
「
「さっき君が言った通り、アルバートだよ。僕は」
「あいつは死んだ。〝
「そうとも、僕は死んだ。君達のせいでね」
こちらを睥睨するように歪んだ笑みを浮かべながら、こちらを見るバケモノ。
ああ、この感じ……調子に乗っているアルバートと同じ顔だ。
死んだはずの人間が、どうしてこんな
あるとすれば、だ。
この混じり気のある気配から察するに……〝
思えば、この地にある何者か──異界の神は、知恵ある生物を利用しようとしていた節がある。
そう考えると、つじつまが合わないでもないが……推測にしかならないな。
「神がさ、応えてくれたんだよ。僕に命をくれた。力をくれた。権利をくれた」
「あん?」
「君達を喰いつくして君臨する権利さ」
「何言ってんだ、お前」
ぞわりとした殺気がバケモノから漂う。
これは、人の殺気ではない。
そりゃ、こんな
「フィミア、フィミアはまだかなぁ。僕、彼女を待ってるんだ」
「なんだと?」
「もう待てなくってさ、暇つぶしに君の女を殺そうと思ったんだけど……ちゃんと死んでた?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中から冷静さが消え失せた。
無言で踏み込み、
それを片手で受け止めて、バケモノが笑った。
「相変わらずキレやすいね、君は。その様子だと、うまくいったんだ? 次はどこにしようか? あの宿? それとも教会? ロロ・メルシアの家にする?」
「もう、黙れ」
「せっかく再会したんだ、邪険にするなよ。ああ、そうだ。ロロ・メルシア本人にしよう。こっちかな」
アルバートの頭部が歪に膨れ上がって、左目を肥大させる。
うっすらと青い燐光が集まって、狙を定めるようにぐるりと顔を動かすバケモノ。
本能的にまずいと感じた俺は、跳ね上がって頭部に体当たりを仕掛ける。
「ッらぁ!」
「あっ」
音もなく放たれた光が森の一部を焼きながら、空へと消える。
ぎりぎり間に合ったようだが、腕の一部がえぐれて吹き飛んだ。
左腕は、もう使い物になるまい。
「邪魔するなよ、ユルグ。ロロ・メルシアを殺して、フィミアを手に入れるんだ」
「はっ……お前ってやつは、本当にバカだな」
「君に言われたくないね」
顔をしかめるアルバート面のバケモノに、ニヤリと口角を上げてやる。
「フィミアはな、俺の女になったんだ」
「──は?」
「柔らかだったぜ? あいつの肌はよ。しかも、抱くといい声で啼くんだ。お前にも聞かせたやりたかったくらいだ」
「な……なっ、なッ……!?」
狼狽しながらも、殺気を増していく化物。
これでいい。ようやく、まともに殺り合える。
「かかってこいよ、アルバート。今度は俺が──お前にきっちりと引導を渡してやる」
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