第24話 人でなしの思惑
「ご苦労様でした、ユルグ。上々の結果ですよ」
翌朝。
全員集まってでの朝食の席で、サランが俺にそう切り出した。
王都のコーヒーの味を楽しんでいた俺は、やたらと薄い陶磁器のカップを音をたてないようにテーブルに置いて、ため息まじりに返す。
「そろそろ、お前が何を狙ってんのか教えてくれねぇか? いくら駒でも踊らされっぱなしはそろそろきつい」
「いいでしょう。まず、今の状況を作ることが一つ目の目的でした」
「今の状況?」
状況を飲み込めない俺としては、今も何もないのだが。
そんな俺の意を察してか、サランが懐から大量の紙片やら書簡やらを取り出した。
紙片が
「昨日来ていた貴族、そしてその寄り親、教会関係者などからのものです」
「寄り親?」
「あなたに分かりやすい言葉にすると、ケツ持ちですね。下位貴族を統括する大貴族のことです」
なるほど。
昨日、
「んで? 手紙はわかった。俺が監視されてるのもな。それが何だってんだ。まさか暇つぶしに出歯亀をキメてるわけじゃねぇんだろ?」
「まぁ、そういう貴族がいないわけじゃないでしょうが……一番の目的は稀代の〝聖女〟フィミア・レーカースが選んだ勇者であるあなたの品定めと事実の確認です」
サランが視線を滑らせる先──俺の隣でジャムたっぷりの紅茶を飲むフィミアが少しばかり顔を緊張させる。
「情報を引き出すには、そのための下地作りが大切です。あなたのおかげで手早く済みましたけどね。本当はもう何度か軽い立食パーティーをセッティングする予定だったのですが、、これだけの反響があれば十分です」
「で、その手紙の主どもに、何を吹き込むつもりなんだ?」
「まさか。重要なのは……勇者がいるという一点ですよ」
紅茶を静かに口に含んだサランが目を細めながら続ける。
「マルハスで起きたことは、ゾラーク伯爵家を通じて王家にも情報が送られています。〝淘汰〟についての調査が不十分なことも。ですので、まずは勇者の出現について周知を徹底する必要がありました」
「勇者がいるなら〝淘汰〟もあるって話か?」
「そうです。そのためにフィミアさんには当家の屋敷で過ごしてもらいました」
──「その方が都合がよいでしょう?」
数日前、フィミアが言った言葉が思い出される。
なるほど、〝聖女〟が教会本部に帰らずに共にあるべき存在がいると、わざとらしくアピールして、昨日のパーティーでそれを衆目にさらしたってわけか。
しかも屋敷の警備まで緩くして、俺の部屋でくつろぐ〝聖女〟と、そのまま同衾する現場まで押さえさせた。
……いくら何でもやりすぎじゃないだろうか?
フィミアの名誉にもかかわってくる話だ。
やはり、先に相談が欲しかったように思う。
「納得いかないって顔ですね?」
「まあな。お前が目的のために人を使うのはいつものことだが、
「私の役者はなにぶんアドリブに強いタイプでして。筋書きのないほうがいい演技をするんですよ」
こいつ……!
いけしゃあしゃあとよくも言ったもんだ。
「ねぇ、サラン。かなり引っ掻き回したと思うけど……ここからどうするつもりなの?」
「おっと、そうでした。私宛にきている茶話会や食事会についてはあなたに手伝っていただきます、ロロ・メルシア」
「ボク?」
「はい。こう言うと申し訳ないのですが……あなたには、アルバートの代わりを担っていただきます」
サランの言葉い立ち上がりそうになる俺を、向かいに座るロロが手で制する。
自分のことを追放したヤツの代わりだなんて、さすがにひどい。
王都に戻って人でなしなことを思い出したのか?
「悪い意味ではありません。むしろ、ロロさんのほうがずっと有能ですよ」
「当たり前だ」
「
「え、なんで?」
ロロが驚いた顔をするが、サランは首を振る。
「さあ? しかし、王妃殿下の主催するサロンではあなたの名前がたびたび上がると、聞いていますよ?」
「なんだか怖いなぁ……」
「それもうまく使わせていただきましょう。我々の目的は国選パーティになること、そしてマルハスへの援助を引き出し、〝淘汰〟に備えることです。多くの貴族に、『メルシア』と開拓都市について興味を持っていただく必要があります」
サランの言葉にうなずいて、うなずきつつもわからない部分を問う。
「話を戻すが、それとここのところの動きに何の関係が?」
「それについては〝淘汰〟に対する備えですね。貴族というのは疑り深い生き物です。勇者が現れたなどと言っても、実際に危機に陥るまで腰を上げぬ者も多い。ですから、まずは勇者が存在すると認めさせる必要があります」
「それはわかる」
「そのために、あなたとフィミアさんに働いていただいて……これだけの人数が、真偽を確かめるべく探りを入れてきています」
大量の紙片に書簡。
中には、上質紙のものもある。
「危機感を持っていただく必要があるんですよ。事実として、聖女が勇者を選定したという事実、〝淘汰〟らしき兆候、それが王都の目が届かぬ東の辺境で起きているという現実を」
「援助を引き出すためにか?」
「それもありますが、教会本部を動かして情報を得るためでもあります。王家と教会本部は〝淘汰〟についての具体的な情報や判別方法を握っている可能性があります。特に……フィミアさんに〝聖女〟などという大仰な二つ名を与えて送り出したからには、何か確信があったはずです」
サランにそう言われて、少しばかりひりついた感覚が頬をなでる。
確かに、サランの言う通りかもしれないと。
勇者がいるから聖女がいるのではない。
聖女が勇者を選ぶのだ。
で、あれば。
サルディン正教の教皇をはじめとする位の高い坊主たちは、最初から〝淘汰〟の危機を知っていてフィミアをサランに預けたという見方もできる。
俺がダルマにしちまった第三席は何も知らなさそうだったが。
いや、知っていたからこそ聖騎士をよこそうとしたのか?
……今となってはそれもよくわからんな。
「ということで、仕事です」
そう告げて、サランが一通の書簡をこちらに手渡してくる。
「教皇猊下に探りを入れてきてください。フィミアさんと二人でね」
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