第8話 聖女、合流
「ようやく追いつきました」
にこにことしながら、真っ白な鱗の
なるほど、奇妙な足音の正体はこいつか。
「ごきげんよう。お会いしたかったです」
──フィミア・レーカース。
〝聖女〟の二つ名を持つ神官にして『シルハスタ』のメンバー。
きわめて強力な神聖魔法の使い手。
「フィミア? どうしてこんなところにいるの?」
「ああ、やっぱり! ロロ君も一緒だったんですね」
「おいおい、フィミア。質問に答えろ。何だってこんな夜半にこんな場所にいんだ?」
俺の言葉に、フィミアが可憐に微笑む。
「追いかけてきたんですよ」
「誰を?」
「あなた達を?」
小首をかしげる〝聖女〟に、ロロと二人で顔を見合わせる。
俺達を追いかけてとは、いったいどういうことだろう?
「『シルハスタ』はどうした?」
「脱退してまいりました」
「おいおい、それじゃあ……今の『シルハスタ』はアルバートとサランの二人パーティってことか?」
「どうでしょう? サランさんは追加メンバーを探すとおっしゃってましたけど」
まるで他人事……いや、他人事なのか。
俺達同様に抜けてきたというのだから。
「でも、どうして抜けちゃったの?」
「ロロ君にはわかっているのでは?」
問いを返されたロロが、小さく詰まる。
何か思い当たる節でもあるのだろうか。
「はぁー……なんだか妙なことになっちまったぞ。おい、ロロ? どういうことだ?」
「えっと、どうかな」
「誤魔化すの下手かよ、まったく」
どうやら、事情を把握しきれていないのは俺だけらしい。
とはいえ、俺にしても個人的な事情で『シルハスタ』を抜けた身だ。
フィミアに関しても、深く追求するつもりはない。
「まあ、いい。俺達を追いかけてきたといったな? フィミア」
「ええ」
「なら、少し手伝ってくれないか。未踏破地に入ろうと思う」
俺の言葉に少し驚いた後、こちらに向き直るフィミア。
「何かが起こっているんですね?」
「ああ。どうやら最近、少しばかり様子がおかしいらしい。昨日も
「……あまりよくない状況ですね」
頭のいい女は嫌いじゃない。
それが冒険者であればなおいい。
「下手をすればこの辺り一帯でデカいトラブルになるかもしれねぇ」
「原因については目星がついているんですか?」
「いいや、さっぱり。ギルド経由で人海戦術をかけるにしても、とっかかりがねぇ。だからそれを俺達で探そうと思う」
行き当たりばったりな計画だ。
サランなら鼻で笑っているだろう。
かわりに、もっと効率的なプランを口にするだろうが。
「わかりました。では、二人のパーティに入れていただけますか」
「また
「いえ、公文書用の
なるほど、その手があったか。
さすがはフィミアだ。頭が回る。
というか、『シルハスタ』のメンバーはどいつもこいつも頭のまわる連中ばかりだったが。
……俺と、アルバート以外は。
「それじゃあ、夜が明けたらマルハスに向かって移動しよう。馬と
「ふふ、楽しみですねぇ。マルハスには行ったことがないんです」
「何もねぇ、ただの辺境だからな……」
にこにことするフィミアに、軽くため息を吐く。
どこか世間知らずっぽい、このお嬢様はヘンなところで抜けてたりする。
冒険中はすごく頼りになるのだが。
「ありがとう、フィミア。心強いよ」
「また一緒ですね、ロロさん」
手を取り合って笑い合う二人を見て、軽く苦笑する。
フィミアは俺達を追いかけてきたと言ったが、十中八九ロロを追いかけてきたのだ。
実のところ、アルバートがロロを敵視していた理由の一つがこの二人の関係だとは薄々勘付いていた。
隠しているのか、誤魔化しているのか……どちらかはわからないが、二人の距離感はあまりに近い。
おそらく男女の仲になっているだろうことは想像に難くない。
人の恋愛事情に口を出すつもりはないのだが、アルバートには耐えがたいことだったのだろう。
あいつは、フィミアに随分と入れ込んでいたからな。
「はぁー……このまま、サランも来てくんねぇかな。アルバートは抜きで」
「サランさん、『シルハスタ』を国選にすることに随分と頑張っていらっしゃったので……」
「無理だよなぁ」
あいつには俺達を追いかけてくる理由なんてないし。
もしかすると、フィミアに釣られてアルバートは来るかもしれないが。
「……」
「どうしたの? ユルグ」
「余計なことを考えて軽い吐気がしただけだ。それより、フィミアがいるならテントを立てよう。んで、お前らは寝とけ」
ロロと二人ならこのまま焚火の周りで寝ればいいと思ったが、さすがにフィミアを土の上に転がしておくわけにもいかない。
それでもって、テントを立てるなら何も土の上で寝ることもないので、ロロも一緒に放り込んで置こう。
音さえ漏れなきゃ、多少は乳繰り合ってくれたっていい。
久々の再会だ。聞き耳は立てないでいてやる。
「ユルグはどうなさるつもりなの?」
「そうだよ、夜番なら順番にしようよ」
俺の気遣いを何だと思ってるんだ、まったく。
「うるせぇ、俺なら二晩は平気で起きてられる。魔法使いが万全じゃねぇ方が危ういだろうが」
そう手を振って、俺は地面に置いた背負い鞄からテントを引きずり出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます