第4話 十字路の女

 お葬式のあと、紗夜はふらりと十字路を訪れた。

 毎朝、宏太を待っていた思い出の場所。これからは、どんなに待っても彼がここに現れることはない。

 ただ──


「ネエ、モウ辛クナイ?」


 この女は現れると思っていた。

 紗夜にしか見えない「十字路の女」。


「辛いよ」


 だって、大好きな人が消えてしまった。宏太にはもう二度と会えない。


「誰ノセイ?」


 そんなの決まってる。


「あんたのせいだ」


 あんたが笹原麻里奈を消したから。

 あんたが宏太を殺したから。

 あんたが私によけいなことを吹き込んだから。

 あんたが──


「そう、全部あんたのせい!」


 女は、どろりとした目で紗夜を見た。ただそれだけのことなのに、紗夜は思わず後ずさりをしてしまった。


「なに……なんでそんな目で私を見るの?」


 だって、紗夜は何も言っていない。

 麻里奈を消してとも、宏太を殺してとも。すべて、目の前の女が勝手にやったことだったはずだ。


「だったらあんたのせいだよね? あんたのせいってことでいいじゃない」


 女はうっすらと笑った。


「私ノセイ……全部私ノセイ……?」

「そうだよ。全部あんたのせい」

「ジャア、消スネ……私ヲ……」


 次の瞬間、ぶよぶよな女の手が紗夜に喉元を締めつけた。


「な……っ、なに……なんで……っ」


 幼虫を思わせる指が、グイグイと首に食い込んでくる。

 苦しい──苦しい苦しい苦しい!


(なんで……っ、なんで私が……)


 そのとき、はじめて紗夜は女の顔を見た。

 前髪に隠れていない、女の顔のすべて。

 頬がたるみ、顎が二重になり、ただただ醜い──なのに、どこか見覚えがあるこの顔。


(まさか……未来の私?)


 女は、ニィィィッと笑った。


「──ソウダヨ、私ハ未来ノアンタ」


 生きてるのがあまりにも辛いから、その原因を消しに来たの。

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十字路の女 水野 七緒 @a_mizuno

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