すれ違う?幼馴染み

くま太郎

どっちもどっち?

幼馴染みの美少女……漫画やラノベでしか存在しないって良く言われる設定だ。でも、良く考えたら、クラス一や学校一番の美少女にも、幼馴染みがいる訳で。

 更に言えば全国には沢山の学校がある。その数だけ美少女の幼馴染みがいるって事になるのだ。

 だって、俺がそうなんだし。でも、漫画みたいな美味しい展開はない。むしろマイナスな事の方が多いのだ。


敬樹たかき、大畑小麦と幼馴染みってマジなの?羨ましいなー」

 まず質問攻めにあう。そしてやっかまれる。

良いか。幼馴染みってのは、偶然に幼少期に知り合ったってだけなんだぞ。

 大畑小麦は、校内一の美少女と言われている。陸上部に所属していて、髪型はポニーテール。

性格は明るくてフレンドリー。だからなのか、誰とでも仲良くなれるそうだ。


「確かに、世間一般で言う幼馴染みってやつだ。でも、お前が期待している様な仲じゃないぞ。お前だって誰かに聞くまで、幼馴染みだって気付かなかったろ?そんなレベルだ」

 むしろ陸上部の部員の方が仲良いと思う。だって、俺しばらく会話すらしてないし。


「それでもバレンタインにチョコとかもらえるんだろ?」

 確かに毎年もらっている。完全な義理チョコを。


「おう、市販品のチョコを母親経由でもらっている。ちなみに陸上部や同じクラスの奴には手作りのチョコを渡したみたいだぞ」

 なぜ手小麦が、手作りチョコを渡している事を俺が知っているか。

どうも、幼馴染みってワードは強いらしく、手作りチョコをもらった奴が俺に自慢してくるのだ。

 ちなみに小麦の母親と俺の母さんは親友同士。しかも近所に住んでいるから、今でも家族ぐるみで付き合いがある。

 まあ、小麦は部活、俺はバイトが忙しくて殆んど参加していないんだけど。


「あー、なんかごめん。昔はお前も大畑の事を好きだったのか?」

 お約束で小麦の事を聞かれた後は、決まっていたたまれない空気になる。

 向こうは校内一の美少女。俺はクラスに大勢いるモブ。釣り合いなんて取れる訳がない。


「昔はな。進級する度に強力なライバルが現れまくって、今じゃ仲の良さもランキング圏外だよ」

 モテるだけあり、小麦に近づける男はスペックが高い奴が多い。結果、俺は弾かれて、ランキング圏外に追いやられたって訳だ。


「現実は、そんな物だよね。今日もバイトなのか?」

 そりゃ、そうだ。幼馴染みで付き合ったなんて話は、スペックが釣り合っていなきゃ無理なんです。


「おう、目指すはパティシエだ」

 初恋こそ敗れたが、夢は叶えてやる。平野敬樹、将来の夢はパティシエになり、自分の店を持つ事。


 俺がバイトしているのは、区内でも有名なケーキ屋。当然、お客様は女性が多い。


「あれ、敬樹君だよね。小麦の幼馴染みの……私は、清野菜子。小麦と同じクラスなんだ」

 そして、バイト希望者も女性が多いのだ。俺の場合は製造業務だけど、女性のアルバイトさんは販売が主。絡む事は少ない。


「そうなんですか。俺もここでバイトしているんですよ。今日からよろしくお願いします」

 絡みがないからといって、無愛想な態度は出来ない。職場ではコミュニケーションが大事だって教えらました。


「確かパティシエを目指しているんだよね。休憩時間にゆっくり話そう」

 結果、またしても、いたたまれない空気になってしまいました。バイトが俺の癒しの場だったのに。


 後日、小麦のクラス。

 清野菜子は、大畑小麦と向き合っていた。


「小麦、あんたやばいよ。平野君、バイト先で人気だよ。大学生のお姉さん達が狙っている」

 同い年にはモテない敬樹だが、真面目で不器用な性格が年上女性の庇護欲をくすぐっていたのだ。


「嘘?……でも、僕と敬ちゃんは将来結婚を誓っているんだよ」

 大真面目に反論する友人を見て菜子は大きな溜息を漏らした。


「それって幼稚園の話でしょ?その間他の男と仲良くしていたら、距離をおかれるって」

 その幼稚園の約束を小麦は未だに信じていた。敬樹も覚えているが、小さい頃の思い出に昇華しきっている。


「仲良くって……友達としてだよ。一番は敬ちゃん」

 小麦は誰とでも仲良くなる性格なので、異性との距離も近い。

 本人はきちんと線を引いているのだが、肝心の敬樹が遠のく原因になっていたのだ。


「皆に手作りチョコを上げて、敬樹には市販品で済ませたのに?」

 この話を聞いた時、菜子は眩暈を覚えた。傍から見たら敬樹は、ないがしろにされいる様にしか見えない。


「業務用チョコを溶かせば、安く作れるもん。それに敬ちゃんのお菓子凄く美味しんだよ。僕のお菓子じゃ太刀打ち出来ないもん」

 そう、二人は両想いなのだが、肝心の所ですれ違っていたのだ。


「伝わらなきゃ無意味だぞー。小麦、最近敬樹と話をした?」

 ジト目で突っ込む菜子。小麦は冷や汗をたらしまくっていた。


「だって敬ちゃん、アルバイトで忙しそうだし……それより何で菜子が敬樹なんて呼ぶの?」

 小麦は、部活動に加えひっ切りなしに届くライン。敬樹はバイトが休みの日には、お菓子造りに没頭している。結果、二人の時間は、自然と減っていった。

何より小麦は『僕が敬ちゃんの一番近くにいる女子だから大丈夫』と、安心しきっていたのだ。


「バイト仲間だから良いでしょ?今はまだね」

 そう言って意味ありげな笑みを浮かべる友人に小麦は未だかつてない焦りを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すれ違う?幼馴染み くま太郎 @bankuma1027

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ