紗季  6

私はもうすぐ死ぬのだろう。

思い出が走馬灯のように浮かんでは消えていった。


うちの部のホルンは3人しかいなかった。

だから、私が時々4人目を兼任して演奏していた。

4人目のパートを吹く時、私は「かすかに現れる」という意味で「穂乃果」と名乗っていた。


初めはおふざけのつもりだった。

けれど、別人を演じるのはでもあった。

穂乃果になっている時の私は、幼少期の辛い思い出から解放されていた。


そうして私の人格は分裂し、私の体はしばしば「穂乃果」に乗っ取られるようになっていった。


穂乃果の人格は、私ができなかった同世代の異性との恋愛に憧れ、拓也に告白までしていた。

トラウマで屈折した私の人格とは違い、穂乃果の人格はトラウマの影響を受けていない。

だから、穂乃果は私の凶行を阻止しようとしていたのだろう。



けれど、穂乃果は私には追いつけなかった。

この体は元々、私のもの。

だって、私がサキなんだから。



人格のルームシェアは、これで終わり。



私と穂乃果は、この世での生を終えた。



< 了 >


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