第53話 二つの国

 闇騎士こと、リオル・べリエルは助け出されたサクリウス姫が来てから告げた。自分は王と身分の低い女の間に生まれた子であり、サクリウス姫の腹違いの兄にあたることを。証人には王国七剣士の老紳士ダンハロウがいた。これは紛れも無い事実だということが分かった。

「それならそれで良い。竜と共に生きて行ける国を目指すのならばそれでいい」

 サクリウス姫は王の亡骸を一瞥し、そう告げた。

 それからリオル王の行動は速かった。議会を解散させ、竜の知識がある者を各地から招き、大規模な工事をし、竜にとって盤石な国造りを始めていた。そして妹であるサクリウス姫とイルスデンの皇太子、シンヴレスとの婚姻が早くも決まった。だが、シンヴレスが大人になるまで式は御預けということになっている。

 ドラグナージークはガランの上空を見回っていた。反対側にはルシンダがいる。二人は戻って来ると異常の無いことを告げた。べリエル王国の国王が代わってから、しばらく経っていた。領空はいつにも増して平和であった。

「それにしても、あなたが帝国の高貴な人だったとは思わなかったわ」

 二人の家に届いたシンヴレスからの手紙をルシンダが見たのだ。そして笑みを浮かべる。丁寧なシンヴレスの文章の下には印のようにサクリウス姫が描いた可愛い竜のイラストがあった。始め、ルシンダは勘違いしてドラグナージークが浮気をしていてその相手からの手紙では無いだろうかと邪推していた。なので、ドラグナージークは身分を明かすことになった。

「俺はただの竜傭兵だよ」

「竜が大好きなね」

「ああ」

 二人は降下しマルコ達門番に報告に出た。

 


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 それからはヴァンの結婚式に招かれたりもしたが、平和が続いた。自分達で掴んだ平和だ。だが、本来あるべき姿だと思うと誇れなかった。ようやく、大陸の姿が昔に戻った。技術は進めど、二つの国は国と竜との共存共栄に心血を注ぎ手を繋ぎ合っていた。

 ドラグナージークとルシンダの間にも子が出来た。

 リカルドという名の男の子だ。もう三歳だが、未だに母の胸から離れようとしない。

「あなたそっくりね」

 と、ルシンダに言われた。

「当然だ、君の顔も胸も声も何もかもがいつも私は愛しく思っている」

 と、やきもちを妬いていることを正直に告げた。決して平和が悪いとは思ってはいない。だが、いまひとつ一つ物足りなかった。実は一人で行ってみたいところがあった。それは帝国自然公園の原野、樹海を越えた先にある山脈である。賢き竜と暴竜が本当にそこに眠っているのかが気になっていた。思い切ってルシンダに話すと、ルシンダは快く承諾してくれた。

 そうして自然公園に来たドラグナージークは、レンジャーらに見送られ、ベヒモスの群れを一瞥し、しばしの冒険が始まった。そこに二匹の竜が眠っていたのかは無事に戻って来た彼のみぞ知るところである。



 ドラグナージーク END

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竜傭兵ドラグナージーク Lance @kanzinei

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