カイジン都市 第5話 ~隊長の過去・後編~  

俺は、基礎学力と基礎体力のテストを受け・・・

難なく、と言うか首席で合格した。

まあ、帝国最強の騎士の下で2年もみっちりと鍛えられたんだ、

当たり前の結果と言えるだろう。

ほんと、2年の間に1万回くらい死ぬかと思う様な経験をした。

さて、ここまでは不良少年が改心して騎士団に入隊すると

言う感動的な話だが・・・。

はぁ、ここからはちょっと呆れる様な展開になる。

彼は、自らの職権を乱用して、強引に騎士団の人事に割り込み、

無理矢理俺を近衛師団に配属させた。

19歳の近衛騎士、それりゃまあ、

周りから軽蔑と嫌悪と嫉妬の目で見られましたね。

でも、帝国最強の騎士のお気に入りともなれば、

無闇矢鱈に手を出されることはなかった。

が、一緒にいる時間が長くなったせいか、彼の訓練内容は常軌を逸した

モノになっていった。

近衛騎士団に入隊してから1年も経てば、軽蔑や嫉妬は、

憐れみや同情へと変わっていた。

それから更に2年が経ち、俺が22になった時・・・

ゼルノート壊滅の知らせが帝都に届く。

怪人の話を耳にしたカイザルⅣ世陛下は、第一次討伐隊を編成、

ゼルノートへ派兵した。

が、誰一人として帝都に帰ってくることはなかった。

第二次討伐隊は・・・魔法師長に加えて、帝国最強の騎士率いる近衛師団が

派兵させることが決定される。

第一次討伐隊が派兵されてから約3か月後、第二次討伐隊がゼルノートへと向けて進軍を開始した。


「まあ、今回は魔法師長様と帝国最強の騎士が一緒に遠征するんだ。

俺達の出番はないかもな~」


魔法師長と帝国最強の騎士が共同で任務に当たる。

そんな異例の事態に、動揺する者もいたが、

多くは『今回は楽な任務になりそうだ』と楽観視していた。

が、その慢心が・・・あの様な大惨事を招くことになる。



ゼルノート近郊に到着した時、かなり強めの雨が降っていて、視界は悪く、雨音や風音は、約7500名もの鎧を纏った騎士の、行軍の音さえかき消すほとだった。

そんな天候で、仮の駐屯地を設置することすらままならない状況。

長距離の行軍に加え、長時間強い雨風に打たれていた騎士達の多くは、

体力の殆どを奪われていた。

そんな最悪の状態の俺達に、怪人共は奇襲を仕掛けて来た。

最悪の状況が重なって、怪人との戦闘開始から約30分で、7500名近くいた

近衛騎士は、3700にまで減ってしまう。

否、魔法師長と彼がいたからこそ、3700にまでしか減らなかったと

言えるだろう。

もし、魔法師長も彼もいなければ、今頃は・・・誰一人として、

生き残っていなかったはずだ。

が、間もなくして、俺を除いた、魔法も魔道具も扱えない騎士は全滅した。

俺は、彼の傍で、彼の背中を狙う怪人を殺していたからか、

最後まで死ぬことなく、生き残れた。

今思えば、彼の傍こそ、最も安全な場所だったんだろう。

2時間の戦闘の末、ゼルノート周辺の怪人約137体を殲滅した。

しかし、近衛師団の騎士の数は948名まで減らされ、内、478名は、

脚や腕と言った、騎士としての生命線を失い、224名は精神に

異常をきたすこととなる。

無事生き残ったと言える者は、僅か246名だけだった。

疲労のせいか、騎士として訓練されている内に、気配を感じ取る感覚が

鈍ったのか、近くで俺の命をひっそりと狙っている存在に気がず、

戦闘が終わったと思い込み、その場にへたり込んだ。


「グガギャヤヤアガガアガガギャアアァァァ」


その直後、怪人の奇声が背後から聞こえた。

俺は急いで振り返ったが・・・既にどうしようもなかった。

が、遠くから音速を越える速さで、鉄鎖の思い一撃が怪人の腹部に直撃し、

下半身が跡形もなく吹き飛んだ。

鉄鎖の飛んで来た方向を見やると・・・

別の怪人に腹部の半分を食いちぎられた、彼が、立っている。

その時、初めて分かった・・・彼は、自らの身を守ることより、

俺の身を優先してくれたことが。

俺が、油断さえしなければ、彼が死ぬことはなかった、と言うことが。


「おいっ」


俺の声は、完全に震えていた。

彼は、俺が困惑していることに瞬時に気が付いたんだろう。

「こんなの・・・何でもねえよ」

と彼は言いながら、鉄鎖で怪人を絞め殺す。

それと同時に、彼は力なく地面に倒れ込んだ。


「っ、隊長」


そう言いながら、一人の騎士が駆け寄ってくる。

が、次の瞬間、彼は殺された。

周りに隠れ潜んでいた怪人が、彼が戦闘不能となると同時に飛び出してきた。

今まで戦線は、彼と魔法師長のお陰で何とか保っていた様なもの。

その内の一人が倒れた今は、奴らからすれば、俺達を殲滅する絶好の機会。

魔法師長や副隊長を含める戦える騎士が、

戦線を維持しようと努力しているが・・・状況は絶望的。

どうしたらいいか、分からない。

その場にへたり込んだまま動けない俺に、何千回と聞いた声が“喝”を入れる。


「立てっ。立って、俺の魔道具を使って戦え」


本来なら、体が動くことはありえなかっただろう。

が、何千回と聞いた“喝”を入れる声、体が記憶していた。

その声を聞いたら、すぐに動かないといけない、と言うことを。

鈍っている思考とは真逆に、体は何時もの何倍もの速さで動いていた。

そして、彼の手から鉄鎖を受け取る。

第一級魔道具『欲望の鉄鎖』、適正がある者はほんの一握りしかいないと

言われるそれは・・・俺の手に物凄く馴染んだ。

まるで、自分の体の一部かの様だった。

彼から教わった、鉄鎖で戦う方法、その全てを怪人にぶつける。

どのくらい戦っただろう。

気が付いた時には・・・彼は息を引き取っていた。

結局、俺は彼を看取ることすら出来なかった。

副隊長も死に、残るはたったの174名。

俺は、自らの過ちで多くの犠牲を出し・・・

父親の様に慕っていた人を死なせてしまった。

そう思った後の記憶は、殆どない。

仲間の遺体全てを持ち帰りたかったが、生き残った者の人数的にも、

肉体的にも、彼や副隊長の遺体を運ぶのが精々だった。

帝都に帰還してから1ヵ月の間は、虚無に包まれて過ごすことになる。

が、時間が経つに連れて、自らの無能さと彼を殺した怪人共に対して、

怒りが湧いてきた。

そして俺は、自ら志願して、騎士団ゼルノート支部へと転属することにしたのだ。

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カイジン都市 ヒーズ @hi-zubaisyu

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