カイジン都市 第4話 ~隊長の過去・前編~  

私はエドウィル様から受け取った鍵で、資料室の扉を開け、右奥にある666と

書かれた棚から、隊長の経歴を探し出した。

彼の経歴が記された資料は、普通のモノの何倍も分厚く、

エドウィル様の言葉も相まって、私は少し、不安を覚えてしまった。

でも、読まないと言う選択肢を取ることは、私にはできなかった。



アルフレッド・オスマン。ゲールク歴253年12月4日に誕生。

しかし、これは仮の誕生にでしかない。

何故、仮でしかないかと言うと、彼は孤児院で育っており、

正確な年齢が分かっていないからである。

故に、彼が孤児院の前に捨てられているところを発見された、

ゲールク歴253年12月4日を彼の仮の誕生日としたのだ。

彼の住んでいた・・・


俺の住んでいた孤児院は最悪な場所だった。

そこは、孤児院の名を借りた“人殺し”を育てる場所だった。

まあ、違法な組織の企みの一部に過ぎなかったわけだが。

10にもならない内に、人の殺し方を教わった。

それだけじゃない、人の殺し方に加えて魔物の殺し方も教わった。

殺し、盗み、詐欺、拷問。犯罪に使える技術は一通り学ばされた。

15にもなれば、初任務を与えられ・・・そこで初めて人を

殺したのを覚えている。


「やめろっ」


叫ぶ男の心臓を一突き、その後、短剣を捻りながら引き抜き、首を切り落とす。

これが奴らから教わった“確実な殺し方”・・・だ。

まあ、殆ど例外なく心臓を刺せば死ぬ。

例外があるとすれば、魔物を相手にするときくらいだ。

でも、魔物を相手にすることなんて殆どない。

殺し、食事、睡眠、殺し、食事、睡眠、これが俺・・・

俺達の一日のルーティーンだ。

殺さないと食事も休息ももらえない。

だから何よりも先に殺す。

殺した数が多ければ多い程、待遇は良くなっていった。

だから、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺した。

そしたら、何時しか普通の食事と寝床が与えられる様になっていた。

でも、それに比例して、仕事の難しさがどんどん上がって行ったことを

覚えている。

最初は下級貴族や商人、敵対組織の要人程度だったのが、上級貴族や

敵対組織の幹部、大富豪など、殺すのがかなり難しい対象の暗殺を命じられた。

それでも、殺して、殺して、殺して、殺して、殺した。

そしたら、酷い扱いを受けることはなくなっていた。

何時しか俺は、名無しから名前付(ネームド)になっていて、

温かい食事と温かい寝床を貰えた。

殺しは、生きるための唯一の手段だった・・・あの時までは。

ある日、帝国近衛騎士団の団長の暗殺を命じられた。

何人もの名前付(ネームド)が暗殺に向かい、そして、帰って来なかった。

とうとう、俺の番が来たのだ。

何時も通りにやるだけ・・・。

そう思っていたのだが、彼は当時、帝国最強の称号を与えられていた人物で、

一暗殺者如きが勝てる相手ではなかった。

短剣で背後から心臓を一突き、その後、首を切り落とす。

何百回と繰り返してきた動作なのに・・・今回は、俺の刃が届くことはなかった。

完璧に背後を取って、周りに誰もいないことも確認して、

仕事終わりの油断しやすい瞬間を狙ったのに、彼は鉄鎖で俺の攻撃を完全に

防ぎ・・・否、それどころか一瞬にして叩きのめされ、気を失ってしまった。



負けたはずの俺は、まだ生きていた。

だが動くことは出来ない。

打ち身、打撲、骨折、出血、内出血。兎に角、

身体のあらゆる部分を破損していた。

自らの体の状況を正確に確認できる程に目が覚めると『負けたはずの俺が、

何故、まだ生きているのか』と真剣に考える様になった。

その答えは次の瞬間に分かる。


「お前は、今までに俺を殺そうとした奴の中で、一番、優秀だった。

俺の魔道具との相性も良さそうだった・・・

もし、お前が俺の技術を受け継ぐって言うんなら、生かしてやってもいい。」


言葉足らずと言うか何と言うか・・・。

でも、当時の俺は『生きるためになら何でもする』と言う考えだったから、

言葉足らずだろうが、無愛想だろうが・・・

例え、それが自らの暗殺対象であっても、二つ返事で受け入れた。

彼は、決して優しい人ではなかった。

日が出る前に起こされ、急に訓練が始まる。

基礎とか、技術とか、全て見て盗め、と言った態度を取っていたことを

覚えている。

俺を守ってくれることもなかった。

俺の裏切りを知った組織が、俺のことを殺そうと大量の刺客を送って来ても、

彼は無視していた。

この程度の敵で死ぬなら、俺の教えを受けるに値しない、って感じだったかな。

でも、毎日の様に刺客を送ってくる組織のことを目障りに思ったのか、

彼は俺を飼っていた組織を徹底的に叩き潰した。


「刺客がいなくなったからには、お前を鍛える時間を増やす」


彼の言葉を、当時はあまり深刻に受け取っていなかったが・・・

はぁ、思いだすだけでも最悪の日々だった。

訓練、訓練、訓練、訓練、訓練、組織にいた頃の方がまだ

休息を取れていただろう。

それに彼は・・・曲がったことが大嫌いだった。

訓練を途中で投げ出せば半殺しにされ、盗みを働けば半殺しにされ、

兎に角彼の気に食わないことを少しでもしたら、半殺しにされ。

そんな環境にあったせいか、不満とか、怒りとか、少し偏ってはいたが、

人並みに感情を得ることが出来た。

人としては不器用で無愛想で、自分勝手な所があったりもしたが・・・

何時しか、彼は俺の中で父の様な存在になっていた。

彼の保護され2年が経ち、俺が19になった時、

騎士団への入団試験を半ば強制的に受けさせられた。

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