カイジン都市 第3話 ~敵襲、隊長は何者か~

これから私達の本部となる部屋は・・・埃とカビが溢れていた。

使わなくなった道具や書類も無造作に散らばっていて、

とても部屋と呼べる状態ではなかったわ。

まあ、だから全員で掃除をすることにしたのだけれど。

案の定、我らが親愛なる隊長様は椅子に座って一歩も動かない。

彼は、見た感じ全くに自分の仕事に興味を持っていない。

それどころか、めんどくさそうにしている。

そんな態度で仕事をするくらいなら、やめればいいのに。

なんて考えながら、掃除をしていると、騎士団支部の外からゴゴゴゴ、と言う

建物が崩れる轟音が響いてきた。

皆、反応は早かった・・・けど、誰よりも早く反応したのは、我らが隊長だった。

轟音が響くと同時に、部屋の窓から外へ出ていく。

なんて言うか『場慣れしている』って感じ。

動揺するどころか、顔色一つ変えずに、咄嗟に動き出す。

でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

木造や石造りの建物を破壊できる存在、そんなの人間じゃない。

つまり、騎士団支部の外に怪人がいる。

隊長は恐らく、その怪人の対応するために外へ出ていった。

なら、これは隊長の技量を計れるいい機会だと思う。

私より技量が高ければ・・・隊長として認めなくもない。

でも、私よりも技量が低いなら、それを理由に単独行動してやるわ。

そう思って、私は隊長が飛び出して行った窓へと駆け寄って、

外の状況を確認する。


「ギャガアアギャガガガアアギャァァ」


人の様で人ではない怪人の声、骨格は人なのに、

その見た目からは一切人らしさを感じない。

そして、建物を完全に破壊するほどの怪力。

魔法ではないのに、世の理に干渉する力『異能』。

外にいる騎士達は怪人を止めようと抵抗しているけれど・・・

全く歯が立っていない。


「貴様ら、下がれ」


我らが隊長様は、騎士と怪人の間に割って入って、威圧感のある声でそう言った。

その威圧感は・・・常人が出せるモノじゃない。

分かる。これだけで分かる。

彼が只者じゃないってことが。

離れた場所にいる私ですら、彼の威圧感に気圧されてしまっている。

それどころか、全身の鳥肌が立って、ここは危険だって、本能が警告してきてる。

あれは魔法の一種なのか、それとも魔道具の力なのか・・・

分からない。聞いたことがない。

でももし、あれが魔法でも魔道具の力でもなくて、彼個人の力だとしたら、

一体、どんな境遇に身を置いてきたと言うの。

そんな彼は、戦闘能力も桁違いだった。

彼は、騎士達が撤退したのを見計らうと、どこからともなく鉄鎖を出した。

漆黒色の鉄鎖は、目にも止まらない速さで怪人に叩きつけられ、

跡形もなく消し去ってしまう。

と、同時に、轟音と暴風が巻き起こる。

そう、彼は音を超越する速さで鉄鎖を怪人に叩きつけたのだ。

怪人は決して弱いわけじゃない、石造りの建物を破壊し、

幾人もの騎士を物ともせずに突き進んできた。

そんな化け物を一瞬で。

横暴で無愛想でやる気がなくて、周りに合わせようともしない人なのに、

戦わせれば英雄級。

・・・彼は私達の隊長で、実力は信頼できる。

でも、あまりもに彼について分からないことが多すぎる。

本当に彼を信頼していいのかしら。


「・・・」


私は暫く考え込んだ後、急ぎ足でエドウィル様の下へと向かった。

彼は只者じゃない。

それはあの戦闘で嫌と言うほど分かった。

エルゼ陛下のことを信頼していないわけじゃない。

だから、彼が悪人だとは思わない。

でも、彼が一体何者なのかを知る必要がある。

理性的じゃない、感情的な話になってくるかもしれないけど、

これだけは絶対にそうしないといけない。

私はゼルノート支部長執務室の前に着くと、大きく息を吸って、扉を叩く。

「どうぞ」

と言う返事を聞くと同時に、私は「失礼します」と言いながら

ゆっくりと扉を開く。

すると、窓の傍に立って外を眺めているエドウィル様の姿が目に映る。

エドウィル様は、私の急な来訪に動じることはなかった。

それどころか、意外なことを口にした。


「貴女が・・・彼の戦う姿を見れば、絶対に彼の正体を知りたがる。

そう、思ってはいました。まあ、まさかこんな早くにその時が訪れるとは

思っていませんでしたが」


エドウィル様はそう言いながら、引き出しから鍵を取り出して、机の上に置いた。

続けて

「2階の一番奥、そこには騎士団ゼルノート支部に配属されてきた

騎士達の経歴が保管されています。右奥の666番と書かれた棚。

そこに彼の経歴が保管されています」

と親切に教えてくださった。

私は感謝の言葉を述べると、早速、隊長の経歴を調べるため、

鍵を取ろうとする。

が、エドウィル様は私が鍵を取るよりも速い速度で、私の手を掴んで、

真剣な眼差しで頼み事、のようなことを仰った。

「彼の過去を知ったとしても・・・一切態度を変えないであげてください。

何事もなかったかのように、今まで通りに彼に接してあげてください」

と。

エドウィル様のあまりの真剣さに、私は一瞬、

鍵を手に取ることに戸惑いを覚えた。

けど、エドウィル様の真剣な眼差しに、私は「はい」と短く返事を返して、

鍵を受け取る。

私はエドウィル様に、騎士団特有の敬礼をした後、急いで資料室へと向かった。

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