第6話二つの未来
ベッドから出て、僕は
僕の手を佐伯未来がつかむ。
そうするとあるイメージが流れこんでくる。
「あなたはどちらを選ぶのかしらね」
どこか楽しげに母さんは言った。
僕の脳内に流れこんだのはある種の未来のかたちであったと思う。
白くて清潔な部屋に僕たちはいた。
僕たち、そう複数形である。
お腹の大きな佐伯未来が僕を優しげな瞳で見ている。
佐伯未来の左右にはそれぞれ小さな子供がいる。左に男の子が、右に女の子がいる。
「次に生まれるのはどちらかしらね」
佐伯未来が大きなお腹をさする。
僕もそのお腹を撫でた。
かわいい妻にかわいい子供たち。
彼女らは皆、僕を慕っている。
僕は一人ではない。
一人でなはないということが、どんなに幸せなのか。母さんがいなくなり、僕はずっと一人だった。誰も僕を必要としていない。誰も僕のことを気にしない。
そんな生活に意味なんてみいだせない。
佐伯未来となら僕は家族をつくることができる。母子家庭でさらにその母親すら失った僕が欲してやまなかったものが手に入る。
強い力で別の誰かが、僕の手をひいた。
夢から覚めた気がした。
僕の手をひいたのは羽鳥愛梨だ。
彼女は僕の顔をその大きくて柔らかな胸におしあてる。そうすると別のイメージが頭に流れ込む。
テレビからは世界がどんどんひどくなっていく情報がながれている。どこかとどこかの国が戦争している。ある国では暴動が起きて、都市が壊滅した。別の国では飢餓で何万にもの人が苦しんでいる。
そんな中、僕は自宅のマンションで羽鳥愛梨と怠惰な日々を送っている。
相も変わらずゲームをしたり、アニメを見たりして過ごしている。
そして夜になると羽鳥愛梨に抱かれて心地よく眠るのだ。
こんなに楽しい日々はない。
学生時代から憧れていたあの絶世の美少女が僕とだけ、怠惰な生活を送っている。
人類の未来なんてどうでもいい。
僕はこの美しくて、エロい体をしている羽鳥愛梨と楽しく過ごすのだ。
世界なんてどうでもいい。
誰だってそうだろう。
世界よりも美人の彼女との楽しくて気持ちいい生活を選ぶだろう。
気がついたら、僕は羽鳥愛梨とホテルの廊下を歩いていた。
母さんには悪いけど僕は羽鳥愛梨を選ぶよ。
可愛くて、美人でグラマーな彼女が僕の物語のヒロインなんだ。
「私を選んでくれてうれしいわ。ねえ、影灰都君、ちょっといいかしら?」
ホテルを出て、僕たちは夜の街をあるく。
「なんだい?」
僕は言った。
「世界の未来よりも私を選んでくれてありがとう」
羽鳥愛梨は歩みを止める。僕をぎゅっと抱きしめる。
「世界なんてどうでもいい。僕は君だけいたらそれでいいんだ。僕は君を選んだ。だから死ぬまで一緒にいてくれるかい」
僕は羽鳥愛梨のすべすべとした手を握る。指と指をからめる。いわゆる恋人つなぎだ。
「約束するわ。私があなたの世界になってあげる」
僕たちは月夜の街中でキスをした。
怠惰で可愛い彼女は僕の体液を飲まないと死んでしまう 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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