第六話 クラス最底辺の陰キャ、早朝に勝負を仕掛けられる

 大衆に視線を向けることはあっても、大衆に視線を向けられることは慣れていない俺は、クラスメイト達から向けられるざわつきを含む視線に困惑していた。


 なんでこんな視線を向けられてるんだ? 俺何かしたか? 何も出来ない陰キャだぞ?


 ……まさか、昨日将棋部に入ったことがバレたのか? "お前みたいな底辺のゴミクズが部活に入部するなんて図々しいにもほどがある!"って言いたいのか?


 だとしたら泣くぞ。


「……えっ」


 そんなことを思いながら自分の席につこうとしたとき、俺は椅子を引く前に立ち止まった。


 なぜか俺の机の上に将棋盤が置かれている。


 ……机の上に将棋盤!?


「いや、なにこれ……」


 全く意味が分からない。なにこれ? 新手のいじめ? 新手のいじめなのか??

 机の上に将棋盤だけをおくことで"お前は将棋しか取り柄の無い底辺陰キャだ!"と伝えたいってことなのか?


 だとしたらやっぱり泣くぞ。正論パンチはやっちゃダメって学校で習わなかったのかよ……。


 俺は内心慌てふためきながらも静かに周りをきょろきょろと見渡す。

 しかし返ってくる視線は"いやお前が何なんだよ"とでもいいたげの怪訝に満ちた表情ばかりだった。


 何が起こっているのか分からないが、とにかく早朝に人の机に将棋盤が置いてあったらその張本人に視線が向いていたのは理解した。


 でも何が起こってるのかだけは未だにマジで分からない。


 誰のものかも分からない将棋盤に容易に触れていいものなのか、机にカバンを置くこともできない……。


 もしかして俺は今日このままずっと机に将棋盤を広げながら授業を受けなくちゃならないのか。教科書は無くしました、でも将棋盤ならありますってか。チョークじゃなくて駒を投げつけられそうだ……。


「……ちょっといいかしら」


 そんな時、横から聞き覚えのある凛とした声が聞こえてきた。

 ゆっくりと声の方へ視線を向けると、そこには腕を組みながらちょっと不機嫌そうな表情を浮かべている東城の姿があった。


「お、おい。東城さんが渡辺に話しかけてるぞ」

「なんで東城さんがあんな奴を……?」

「てかあれっていつもスマホばっかみてる渡辺だよね……?」


 カーストトップのクラスメイトが突然話しかけてきた事実に、東城に俺を含めたクラス全員が注目する。


「な、なに……?」


 俺は動揺と困惑が入り混じったような声色で、顔をヒクつかせながら東城を見上げる。


 すると東城は無言で机を挟んで俺の真正面へと移動し、前の席の椅子を勝手に拝借して座った。


 ……ん? まさか、この机の上に置かれてる将棋盤ってもしかして──。


「一局いいかしら」


 正気かこいつ。



『【ヤバい】自滅帝とかいう正体不明のアマ強豪wwwPart10』


 zimetu29

 :朝教室入ったら机に将棋盤置かれてて公開処刑された。今腹痛くてトイレ入ってる


 名無しの30

 :>>29 ?


 名無しの31

 :>>29 ???


 名無しの32

 :>>29 寝ぼけてんぞ


 名無しの33

 :>>29 意味分かんなくて草


 名無しの34

 :>>29 帝ちゃんお腹痛いの?


 名無しの35

 :>>29 いじめか?


 名無しの36

 :>>29 どゆこと?


 zimetu37

 :昨日言ってたクラスのカーストトップの女子に目付けられてなんか朝から対局させられたんだよ。クラスのみんなが見てる前での対局とか地獄そのものだった


 名無しの38

 :>>37 うわぁ


 名無しの39

 :>>37 これマジ?


 名無しの40

 :>>37 想像したら腹痛くなってきたな……


 名無しの41

 :>>37 ちょっとうらやましいかも


 名無しの42

 :>>37 与太話はいい、結果だけ教えろ


 名無しの43

 :>>37 ワイなら不登校まっしぐらや


 名無しの44

 :>>37 それで今トイレにいんのか


 zimetu45

 :>>42 結果も何も、朝のHR間際だったから中盤辺りで終わったよ。最後に舌打ちされて自分の席に戻ってった


 名無しの46

 :>>45 えぇ……


 名無しの47

 :>>45 つらw


 名無しの48

 :>>45 クッソ嫌われとるやんけ!


 名無しの49

 :>>45 多分その舌打ちは帝ちゃんにじゃなくて教師に対してだと思う


 名無しの50

 :>>45 舌打ちを投げキッスと解釈しろ、脳を誤魔化せ


 名無しの51

 :>>45 周りの反応が気になるな


 名無しの52

 :>>45 強く生きろよ自滅帝、お前は本当は強い子だ

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