第四話 初心者(九段)素の実力で部のエースを倒してしまう
『【ヤバい】自滅帝とかいう正体不明のアマ強豪wwwPart9』
名無しの356
:なんか伸びてると思ったら自滅帝来てたんか
名無しの357
:もう殺(や)りにいってしまったけどな
名無しの358
:その後自滅帝を見た者は誰もいなかった
名無しの359
:逆だよ逆
名無しの360
:無知ですまんのだが、将棋戦争『九段』って実際どのくらいの強さなん?地区の大会で優勝できるくらい強いんか?
名無しの361
:>>360 これは無知
名無しの362
:>>360 そんなレベルじゃない
名無しの363
:>>360 日本全国優勝できるくらいだと思う
名無しの364
:>>360 桁違いやぞ
名無しの365
:>>360 ほぼプロみたいなもんや
名無しの366
:え、そんな奴が学校の部活に入部しようとしてんの?ヤバくね?
名無しの367
:>>366 うん、やばいよ
名無しの368
:>>366 そうだよ
名無しの369
:>>366 だからみんな焦ってる
名無しの370
:帝ちゃん今頃何考えてるんだろー
まさかこうしてクラスメイトの女子と将棋を指す日が来るとは思わなかった。
いつも画面先ばかりみているから、もしかしたら画面越しには異性と指したことはあるかもしれないが、面と向かって指すのは流石に初めてだ。
ソワソワした感情が背中を撫で、無性に自分の異性への耐性の無さを実感しているようで腹が立つ。
だが逆に言えば、集中している間はそうした感情とは切り離せて読みに徹することができていたと言えるだろう。
──だって今は、考えることをやめてしまっているから。
「ウソ……なんで、このアタシが……」
指し手を震わせながら静かにそう呟く東城。
「……マジっすか」
いつも元気な雰囲気を出していそうな葵が真顔で絶句している。
二人だけではない。
他の部員たちも、俺と東城の将棋盤を覗き込んで同じような反応をしていた。
「……えっと、詰みですよね?」
いつまでも盤面を見て震えている東城に、俺は思わず口からそんな言葉を漏らした。
何をそんなに悔しがっているのかは全く分からないが、とにかく局面の勝敗は決していた。
「……負け、ました……っ!」
拳を握りながら半ば投げやりに投了する東城に、俺は静かに頭を下げた。
「ありがとうございました」
普段のネット将棋ではそんな言葉をわざわざ吐かないため、やけに新鮮な気持ちだった。
そして肝心の将棋の内容はと言うと、局面は
矢倉の定跡なんて俺はとうの昔に忘れてしまったが、東城はその性格ゆえかかなり堅実に定跡手順を守っているように見えた。
だけど、将棋の定跡は日々進歩する。昨日までは最善手だと思っていた手も、今日になったら変わっている、なんてことも珍しくはない。
俺は東城の定跡を下からすくいあげるように裏定跡を指し、凝り固まった定跡局面をひっくり返してそのまま優勢に持ち込んだ。
あとは押し切って勝っただけだ。
まぁ、東城もわざわざ分かりやすい定跡手で応じてきたということは、俺を試すように指したということなのだろう。きっとまだ本気は出していないはずだ。
俺は振り返って武林部長に確認を求めた。
「一応勝ちましたけど。これでテストは合格、ですか……?」
「あ、ああ……よくがんばった渡辺君! まさか彼女に平手で勝つとはな、流石のオレも予想していなかったぞ!」
そう言って俺の背中をバシバシと叩く武林先輩。
手加減してくれてるのかもしれないが、普通に痛い。
「あはは……いやまぁ、相手が手を抜いてくれたからですよ」
「ほう、そうか。君にはそう見えたか」
「……?」
笑顔のままそう言う武林先輩に、俺は小首を傾げた。
そして、俺の真正面で俯いてる東城に向かって諭すように優しい言葉をかけた。
「どうだ東城君? 彼の実力は本物だ。『九段』と言うのも本当かもしれないぞ?」
「……ッ」
キッと俺の方を睨みつけた東城は、涙ぐんだ声を必死に抑えながら両手を長机に叩きつけた。
「……み、認めない。アタシは絶対に認めないんだから……ッ!」
そう言って東城は立ち上がり、足早で部室を出ていった。
「えっ、なに、こわい……俺まだ認められてないのか……」
「にゃははは~!! ミカドっち、そういうとこっすよ~!」
「……?」
周りが半ばドン引きした目線を俺に送ってる中、葵だけは笑顔で俺の肩をポンポンと連打してきた。
うん、武林先輩よりマシだけど痛い。あっでもちょっとコリに効く……。
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今回は将棋の対局描写をカットしましたが
話が進むごとに勝負シーンを入れていくのでご安心ください。
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