第4話 火花が飛び散る入浴タイム

我が家は築20年越えの賃貸マンション。

20年越えだからか、はたまた先代の住人たちの住み方だろうか……ところどころに古さ、経年劣化が認められる。

入居日は平日だった。

夫は仕事なので、私一人で不動産屋にカギをもらいに行く。

一通り手続きが終わって、さて一人部屋に入る。

廊下(家の中の)に大きな我がいて心底怖かった。


一通り掃除して、掃除して……掃除が終わらない。

いまだにコンロの焦げ付き汚れは落ちないし、浴室の蛇口はちょっぴり緩くわきから水がぽたぽた落ちる。

それでも、毎日毎日掃除して掃除して、今はどうしても落ちないコンロの焦げと鏡の腐食以外は、何処も結構きれいだ。

インスタで見るような明るく、キレイで広い浴室ではなくても、毎日毎日手を入れて掃除すれば意外と心地よい。

心地がいいからめっきり寒くなった最近は、30分~1時間の半身浴。

体も温まるし、気持ちもほぐれる。


というわけで、今日は旅先の気持ちがほぐれないお風呂の話。


一番多いのは水風呂の刑だ。

いたるところで遭遇している。


まずはアルゼンチン。

ホームステイしていた家には、タンク式の湯沸かし。

お湯は昼のうちにタンクにためられている分だけが沸かしてあるから、沸かしたお湯がなくなれば、当然水に切り替わる。

当時そのホームステイ先には他にも3人ほど留学生がいた。

家族もそのお湯を使うから、早くにお風呂に入らなければ、水風呂に入る羽目になる。

全然ゆっくり入れない。

だがそれはそういう文化であるし、郷に入っては郷に従えで烏の行水のごとく早くお風呂に入っていた。


このホームステイ先の家から何度か引っ越したが、引っ越した先の家は、湯沸かしが故障していて数日温かいお風呂に入れなかった。

水風呂……というか水シャワーの厳しさはなかなかだ。

夏ならまだしも冬は泣きそうになる。


これだけではない。

一番は出張で東京へ行った際に泊まったホテル。

仕事は夜まであって、ホテルにたどり着いたのはもう夜……というか夜中。

すっかり疲れ果てて、お風呂に入って寝ようと思っていた。

しかも次の日も朝が早くから出発しなければならず、1分1秒でも長く寝たかった。

そんな私が案内されたホテルの部屋は、広々したとってもいい部屋。

直前割で部屋タイプが選べないプランで宿泊予約したのでどんな部屋になるかと思いきや、むちゃくちゃいい部屋だった。

が……お湯が出なかった。

ロビーに電話したら修理を呼んでくれるかもしれない、部屋を交換してくれるかもしれない。

でも私は1分1秒でも長く寝たい!

結局そのまま水シャワーを浴びて寝ることを選んだ。

仕事で疲れているのに、水シャワーとはなんとも最悪だ。


それでも水シャワーはまだまだましな方。

アルゼンチンで烏の行水のごとく、素早く入浴していたのにはもう1つ理由がある。

あの嫌いな虫ナンバーワンであろうあいつが出没しがちだったからである。

キッチンにも、部屋にもよく出没した。

多分町自体生息数が多いのではないかと思われるが、本当に最初のホームステイ先は一軒家だったこともありよく出た。

ほぼ毎日。

恥かしながら、それが家を変えた理由の1つでもある。


キッチンや部屋に出没するのももちろん嫌だが、一番出没してほしくないのはトイレとふろ場だ。

裸なので、ギャーッと部屋の外へすぐに逃げられず、個室なので、逃げ場のないふろ場とトイレが一番危険地帯。

だから入浴前によくよくチェックし、あいつがいないと確認出来たら一気に急いで入浴する。


実はお風呂で遭遇したのはこの家だけじゃない。

日本からブエノスアイレスへ到着した最初の日。

宿泊したのは町の3つ星ホテル。

地球の歩き方に書いてあった宿で、場所的にも、価格的にもよさそうなところを選んだ。

部屋はまぁまぁよく、長時間で疲れていた私はシャワーを浴びてゆっくりしたかった。

だがそこにはあいつがひっくり返って死んでいた……。

もう泣くしかない!

本当にアルゼンチンは出没率が高くて、毎晩夢にうなされてちょっとしたトラウマだ。


一番本当に身の危険を感じたのは、プエルトイグアスで宿泊したホステルのシャワー。

プエルトイグアスはブラジルとの国境の町。

名前の(イグアス)の通り、世界三大瀑布イグアスの滝に行くにはこの町が最寄。

ブラジルに近いということもあってか、暖かい気候だ。

昼間に到着した私たちは、町を散策しすっかり疲れていた。

南国の暖かい気候の中で食べるアイスは最高においしく、夕日は最高にきれいだった。

その日の疲れを洗い流そうと、シャワーを浴びる。


まず第1の関門。

あいつが出没! ギャー!!!! ギャー!!! である。

もうすっかり服を脱いでしまっていたし、距離が遠かったので「近くに来るなよ……」と思いながら勇気を振り絞ってシャワーの蛇口を回す。

そこで第2の関門。

シャワーは日本の手持ち式のシャワーではなく、頭上にセットしてあるものだったのだが、蛇口を回したとたんバチッ! バチバチッ! バチバチバチバチ!!!! とお湯と一緒に火花が降ってきた! 

恐怖。

感電する! と電光石火で部屋に逃げた。

イグアスの滝は最高だったんだけどね……シャワーは最恐だった……。


ちなみに。

すっかり服を着こんで、濡れた髪で修理を待ったのだが、その待ち時間の長いこと長いこと。

南国タイムってやつだ。

やっと修理の人が来て修理してもらったと思ったら、温度調節がばかになっていた。

水の蛇口とお湯の蛇口を回して温度調整するタイプだったのだが、上から落ちてくる右半分が熱々のお湯、左半分が冷たい水みたいな感じになっていて、結局修理されても心休まらないシャワーだった。


それを考えると、今の家のなんと恵まれたことよ。

狭いし、古いが、あいつは出没しないし、火花も出ない。

ゆったりお湯につかって半身浴ができる。

本当に全くなんて良いお風呂なんだ!

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旅と暮らす 南の月 @minaminotuki

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