こんばんは。
先週完結したライブラリアンにたくさんのコメント、フォロー、ハートや星もありがとうございます。
おかげさまで、総合週間ランキングにランクインし続けています。
ありがとうございます!
新たに読み始めてくださった皆様もありがとうございます。
PVもとても増えていまして、驚いています。
小説家になろうの方でもたくさんの感想をいただいているのですが、その中にエピローグ後のご質問でイヴはどうなったの?という質問が多数ありました。
感想頂いて改めて考えてみると確かに(書籍を購入してくださった方は特に)気になるだろうなと思い、その質問に答えるべく短いお話を書いてみました。
お話の時間軸としましては、新国家モノジアとエピローグの間。
ですので、ここから先は本編を最後まで読んでから読むことをお勧めします。
では、エピローグで語られなかったイヴのエンディングストーリー始めます!
◇
「ウィスパ、ちょっと散歩に行かな~い?」
そうイヴがウィスパを誘うと、ウィスパは嬉しそうにイヴを見つめ体をかがめた。
ウィスパとイヴは遠い昔に会っている。
ウィスパがそのことを覚えていたのか、ウィスパに乗れるのは今のところテルミス、アルフレッドの二人を除けばイヴだけだった。
今、モノジアは新しい国ということですごい勢いで町が作られている。
すでに今いる人の分の住居は作り終わり、今は塔の裏を広く埋め立てて、ウィスパの寝床を作っているところだ。
あまりに人と近すぎればウィスパにとって、良くないだろうというのがその理由。
イヴは国の長であるユリシーズがウィスパに最大の敬意を払っていることをわかっていた。
彼がわざわざ国を作っていいだろうかとウィスパにお伺いを立てていたからだ。
邪竜となったことだって知っているはずなのに、ウィスパを鎖でつなぐわけでも、つきっきりで監視するわけでもなかった。
ウィスパはここにいるのも、どこかへ飛んでいくのも自由だ。
さらに国の中にウィスパの居場所まで作っている。
きっとウィスパはこの国で愛され、大事にされるだろうとイヴは確信している
だから、イヴはウィスパのことは心配していない。
イヴがウィスパの体によじ登り、ウィスパが大地を蹴って空に向かう。
イヴはウィスパに乗って空を飛ぶのが好きだった。
顔に風が当たる。少し痛い。
髪が風でなびく。きっと地上に降りたらぼさぼさだ。
そう頭ではわかっていても、ウィスパと空を飛ぶのはそんなことどうでもいいくらい、わくわくして気持ちがいい。
だが、その日の散歩は気分が晴れなかった。
「ねぇウィスパ、私これからどうしたらいいと思う~?」
気分の晴れない理由はこれだ。
冒険者をしながら、ずっとウィスパを探してきた。
今その目的は達せられ、イヴはその先を見つけられずにいる。
飛びながらちらりとこちらを見るウィスパを見て、イヴは「ここに居ればいいじゃないか」と言っているようだと思った。
イヴはウィスパの提案について考えてみる。
ウィスパの言う通り、ここにいてもいいと思う。
きっと嫌がる人はいないだろうし、新しいこの国にはやるべき仕事もたくさんある。
友達もいる。
じゃあここにいればいいじゃないかとイヴ自身も思うのだが、なぜだか同時にそれでいいのかと考えてしまうのだ。
ウィスパを降りるとイヴの髪は案の定乱れていた。
「ウィスパ、一緒にどっか行かない?」
そういうイヴに、地上に着陸したウィスパは「行かないよ」とでも言うようにちらりとイヴを見て首をすぼめた。
その言葉が出る時点で、ここにいることに障害などないはずなのに悩んでいる時点で答えは出ているようなものだった。
イヴはウィスパを探しに世界を回った。
世界には楽しいこともあったけれど、辛いこともあった。
いや辛いことの方が多かった。
戦争や災害で居場所を失った人を見た。
魔物におびえ暮らす人々を見た。
けれどイヴは知っている。
どんなに辛いことがあっても、人は助けてくれる人がいれば、希望があれば、少しずつ立ち上がるものだと。
それを知っているイヴは、それを忘れてここで幸せに暮らすことができなかった。
引き止められれば決心も鈍るとユリシーズにだけ挨拶をして、イヴはこっそり島を出る。
島を出て気が付いた。
イヴの中には確かに人を助けたいという気持ちがある。
けれど、それ以上に皆と共に時を過ごすことを恐れていた。
イヴが人の世で長い時間を生きている間に、何人もの人が老い、死んでいった。
つまり妹だと思っているテルミスや弟だと思っているアルフレッドが自分を追い越し、老いて死んでいく様を見たくなかったのだ。
「イヴ―!」
空から声が降ってくる。
ウィスパの上に二人の人が乗っていた。
「絶対、また会いに来てね。来なかったら私が会いに行くから!」
妹分のテルミスは、魔力の器を回復させるため未だ魔法が使えない。
それでもこの子がそう言うのなら、本当に来るだろうなと思った。
黙って出て行ったのは自分だというのに、二人が見送りに来てくれて嬉しいと思う自分がいた。
数年後、各地を旅しながら人を助けていたイヴは、一人の赤ん坊を拾うことになる。
全く専門外の育児に四苦八苦しながらも、日に日にその赤子への愛情は強くなる。
毎晩泣く赤子をあやしながら、この子に幸せに暮らしてほしいと願う。
イヴの心の中にはまだ恐れがある。
けれど今をただただ生きようと懸命に声をあげて泣く赤子を見ていると、先の悲しみを恐れて今を無駄にしているような、そんな気持ちになっていた。
イヴは赤子を背負って、少しずつ南下する。
時に立ち寄った村の女性たちに赤子の世話を助けてもらいながら、睡眠をとり、少しずつ、少しずつ南下する。
希望にあふれた国を目指して。
赤子を抱いて帰ってきたイヴに、皆が驚くまであと少し。